運動量の確保と食事療法にて小児肥満の改善に至らなかった症例

DOI
  • 佐々木 優太
    医療法人社団雪嶺会 東京リハビリ整形外科クリニックおおた 外来リハビリテーション科
  • 中島 卓也
    医療法人社団雪嶺会 東京リハビリ整形外科クリニックおおた 外来リハビリテーション科
  • 依田 奈緒美
    医療法人社団雪嶺会 東京リハビリ整形外科クリニックおおた 外来リハビリテーション科
  • 楠本 泰士
    福島県立医科大学 保健科学部理学療法学科
  • 真野 英寿
    昭和大学病院江東豊洲病院 リハビリテーション科

抄録

<p>【はじめに】</p> <p> 近年,小児肥満の割合は増加しており,大きな問題となっている.小児肥満は成人肥満に繋がりやすく,学童期肥満で4割,思春期肥満で7割が成人肥満に移行するとされ,幼児期からの対応が重要とされている.肥満治療では運動療法・食事療法を併用し,生活習慣の改善が必要とされ,3歳から5歳までの児では1日3時間の運動が推奨されている.しかし今回,小児肥満児に対して運動量の確保と食事療法を行ったが,十分な改善に至らなかった症例を担当したため報告する. </p> <p>【症例紹介】</p> <p> 症例は保育園に通う5歳の男児である.吸引分娩で37週,2846g で出生し,3歳時に言葉の遅れと体重増加を気にされ,月1回の療育施設利用を開始した.カウプ指数が19.2,成長曲線における体重の標準偏差(SD)値が+2.0SD以上であったことから小児肥満と運動発達遅滞と診断され,当院にて週1回40分の理学療法を開始した.介入期間は3歳9ヶ月より1年10ヶ月間であった.指示理解良好で,運動が大好きで活発に動いており,何にでも一生懸命取り組む性格であった.Thomas test・SLR testより,腸腰筋・ハムストリングスの短縮が認められ,立位姿勢は骨盤前傾位・腰椎過前彎が顕著であった.甘い物が嫌いであるが,白米が大好きで成人女性と同等以上に食べていた.おかずはあまり食べないとのことで,運動療法と共に食事指導を重点的に行った. </p> <p>【経過と結果】</p> <p> 初回介入時に食事を出す順序の変更を提案したところ,おかずをきちんと食べるようになり,白米を食べる量は減少した. 理学療法は股関節周囲筋のストレッチと全身運動を促すレジスタンストレーニングとした.腸腰筋の短縮と筋出力の未熟さ(MMT3レベル)に加え,腹筋群の収縮が持続的に困難で,本人はおなかの力の入れ方がわからないと発言していた.骨盤の多様な動きを必要とするHip walkなどは困難で、運動時の骨盤前傾位・腰椎過前彎の姿勢修正は難しかった. 介入初期は3ヶ月で身長が2.4cm伸び,体重は0.8kg減少し,順調にウェイトコントロールができていたが,体調を崩すことが多く ,胃腸炎や新型コロナウイルスにより体重減少とその後増加を繰り返すようになり,介入後期ではカウプ指数が22.2と増加した.農林水産省が推奨する食事バランスガイドに基づき,1週間の食事内容をモニタリングしたが,偏食や過食の傾向はみられなかった.週6日以上運動を行っていたことから予測される活動代謝量は1761kcalであり運動量は充足していた. </p> <p>【考察】</p> <p> 本症例は運動量の確保と食事療法の併用は出来ていたが,肥満改善には至らなかった.体調不良による体重増減頻度の影響もあるが,一番の要因は, 運動時の骨盤前傾位・腰椎過前彎が常態化し,骨盤周囲の動きが不足したことにより,運動時の筋使用に偏りが生じていたことであると.そのためハムストリングスの柔軟性低下,腸腰筋・腹部筋力の未熟さに繋がっていると考える. 小児では過度な食事制限はせず,必要量の栄養素を摂取し,身長の伸びに合わせた体重維持が重要視される.特に発達障害児・発達遅滞児では,食事や活動に偏りがあることが多く,将来的な肥満リスクが高くなっている.運動量の確保も重要だが,動作の質的な改善も必要となると考える. </p> <p>【倫理的配慮】</p> <p>本症例はヘルシンキ宣言に則り,発表を行うにあたり,個人情報保護への配慮,協力を断っても今後の診療や通院には一切の支障がないこと,対象者・その保護者に口頭と書面で説明し,承諾を得た.</p>

収録刊行物

  • 小児理学療法学

    小児理学療法学 2 (Supplement_1), 99-99, 2024-03-31

    一般社団法人 日本小児理学療法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018198840556928
  • DOI
    10.60187/jjppt.2.supplement_1_99
  • ISSN
    27586456
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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