高齢者における保守的な障害物回避:その功罪

DOI

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 高齢者の転倒の多くは,段差を跨ぐ動作などの障害物回避場面に起こる。この背景に,高齢者の動きが固定化され,状況に応じた歩行調整の苦手さが指摘されている。こうした特徴は,高齢者における「過度に安全を意識した保守的な障害物回避」でも見られる。保守的な回避は,衝突を確実に回避できる利点がある。しかし,障害物の高さにかかわらず下肢を高く挙上するため,状況に応じた動きの調整機会を失う懸念がある。したがって,我々は保守的な回避を好む習慣がむしろ動きのバリエーションの低下させる可能性を考えた。本研究では,動きのバリエーションを身体協調性の観点で評価できるUncontrolled manifold (UCM)解析を用いて定量化した。UCM解析では,目的動作 (タスク変数,例えばつま先の位置)を制御する身体自由度 (要素変数,例えば各関節角度)の変動を用いて協調性を定量化する。本研究の目的は,高齢者における段差跨ぎ時の協調性を検証し,保守的な回避と協調性の関連性を検討することであった。 </p><p>【方法】</p><p>26名の高齢者(70.9 ± 7.4歳)と21名の若齢者(25.4 ± 5.0歳)が参加し,3m前方にある高さ8cmの段差を跨いだ。 UCM解析を実施するために,タスク変数をつま先の位置,要素変数を下肢7関節の角度に設定した。そして,協調性を表す値としてΔVzを算出した。ΔVzが高い場合,動きのバリエーシ ョンが多いことを示す。高齢者と若齢者の協調性を比較するため跨ぎ動作時のΔVzに対してt検定を,保守的な回避との関連性を検討するためΔVzとクリアランス (つま先と障害物の距離)に対してピアソンの相関分析を実施した。 </p><p>【結果】</p><p>t検定の結果,高齢者は若齢者と比較して,ΔVzが有意に低下していた。さらに,相関分析では,年齢にかかわらず ΔVzとクリアランスの間に有意な負の相関がみられた。 </p><p>【考察】</p><p>t検定の結果から,高齢者は障害物回避時に協調性が低下しており,環境に対して柔軟に動きを調整するための動きのバリエーションが低下していることが分かった。さらに相関分析の結果から,下肢を高く上げ過ぎる人ほど,協調性が低下しており,保守的な回避と協調性低下の関連性が示された。 </p><p>【結論】</p><p>高齢者は障害物回避動作時に,柔軟に歩行を調整する能力が低下していることが示唆された。さらに,保守的な回避を行っている人ほど協調性が低下しており,保守的な回避は必ずしも有益ではないことが示唆された。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p>本研究は,東京都立大学研究倫理委員会 (承認番号:H3-129)の承認を得て実施した。参加者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究目的以外に使用しないこと,個人情報の管理について説明し,同意を得た上で協力を得た。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ