野球選手における腰痛発症に関わる下肢柔軟性の検討

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>本邦において野球は,幅広い世代に人気のスポーツであり,競技人口も多い.そのため様々な障害を抱える選手が多いのが現状である.高校野球選手の腰痛を調査した報告では, 1シーズン中に半数以上が腰痛を発症している. 野球選手の腰痛発症の要因として,下肢伸展挙上(以下,SLR)や股関節内旋可動域の低下による殿部筋柔軟性の低下が考えられている.これら身体機能の変化は,矢状面上の脊柱アライメントを変化させ,椎間関節や椎間板への圧縮ストレスを増大させると考えられている.しかし,これら身体機能と腰痛発症の関係を縦断的な検討は少なく,因果関係が不明である.腰痛発症に関わる因子を明らかにすることで,腰痛予防の一助になると考える.よって本研究では,股関節の可動域低下が,腰痛発症に関与するかを縦断的に調査することを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>部活動参加前の高校野球選手1年生38名を対象とした.測定項目はSLR,股関節90°屈曲位内旋 (以下,股関節内旋)・外旋可動域 (以下,股関節外旋)の他動可動域とした.各最終可動域をデジタルカメラで撮影し,撮影像から画像編集ソフトウ ェアにて角度測定した.踵殿距離テスト (Heel buttock distance:以下,HBD)は定規を使用し,臀部から踵までの距離を測定し た.得られた数値は,投球側と非投球側の差をデータとして解析した.腰痛発症の有無は1シーズン (4月~11月末)を観察期間とし,1週間以上続く腰痛,もしくは,学校生活を含めた私生活で腰痛がある場合を腰痛ありとした.腰痛の有無を従属変数,SLR,股関節内旋,外旋,HBDそれぞれの投球側,非投球側の差を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析をおこなった.以上の統計解析にはR 4.2.2 (CRAN, freeware)を使用した.</p><p>【結果】</p><p>多重ロジスティック回帰分析の結果,股関節内旋可動域の投球側-非投球側の差のみが選択された (オッズ比 = 1.18, 95%信頼区間[1.05-1.39], p<0.05).</p><p>【考察】</p><p>投球動作では,コッキング期からフォロースルー期に,非投球側股関節の屈曲,および内旋運動が起こることで,目的の方向を向き投球を行うことができる.今回非投球側股関節内旋の可動域が投球側より低下している選手に腰痛発症が多いことか ら,腰椎が股関節内旋の代償として回旋運動を強制されることにより,発症したと考える.</p><p>【結論】</p><p>野球選手の腰痛予防には,非投球側股関節内旋可動域の維持が重要であると考える.</p><p>【倫理的配慮】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に則り,被験者の同意を得た上で実施した.</p>

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