在宅要介護高齢者の転倒要因についての考察-転倒予防自己効力感と注意・遂行機能に着目して―

DOI
  • 高木 遼大
    武庫川女子大学大学院 健康・スポーツ科学研究科健康・スポーツ科学専攻 ティンカーベル訪問看護ステーション 訪問リハビリテーション
  • 松尾 善美
    武庫川女子大学大学院 健康・スポーツ科学研究科健康・スポーツ科学専攻 武庫川女子大学 健康運動科学研究所

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 転倒は身体的問題だけではなく、再転倒への恐怖心などの心理的問題も生じさせる。転倒恐怖感を測定する尺度として転倒予防自己効力感尺度(Fall-Prevention Self Efficacy Scale :FPSE)が あるが、転倒の予測因子とはなっていない。一方、認知機能状態は転倒リスクを増大させる要因であり、認知機能が低下は注意・遂行機能の低下を招く。本研究は在宅要介護高齢者の転倒要因について、FPSEや注意・遂行機能に着目して考察することを目的とした。 </p><p>【方法】</p><p> A訪問看護ステーションを介護保険にて利用している者のうち、屋内の移動が自立している者・認知機能の著明な低下がない者 ・転倒状況が確認できる者・住宅環境に問題がない者・転倒に影響を及ぼす薬剤を使用していない者を対象とした。対象者の FPSE・Trail Making Test Part A(TMT-A)・日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を測定し、測定終了から6か 月間の転倒について調査した。期間終了後、対象者を転倒群と非転倒群に分け、測定結果の差をスチューデントのt検定にて算出した。統計処理はIBM SPSS Statisticsを用い、統計的有意水準を5%とした。また、転倒者の転倒要因について、転倒時の状況や各群間の差から考察を行った。 </p><p>【結果】</p><p> 対象者は26名(平均年齢82.8±7.7歳、女性14名、転倒者4名)となった。転倒群の各測定値の平均はFPSE29.5±2.5、 TMT-A240.0±72.8、MoCA-J15.8±2.8、非転倒群では FPSE22.2±6.8、TMT-A128.4±36.5、MoCA-J22.8±3.8で あ った。FPSE・TMT-Aは転倒群が有意に高く、MoCA-Jは転 倒群が有意に低かった。転倒者の転倒時の状況はA「自宅内で小走りをした」、B「外出時は使用している歩行器を使用せずに屋外を歩いた」、C「台風接近時に外出、風に煽られ た」、D「 お茶が入っている湯呑を持ちながら歩いた」であっ た。 </p><p>【考察】</p><p> 転倒群は注意・遂行機能や認知機能が低下しているにも関わらず、転倒に対する恐怖感が低いという結果となった。転倒した 4名は普段の動作以上の難度の動作を行い転倒した。認知機能や注意・遂行機能の低下は、身体機能の自己認識の逸脱を生じさせる。この自己認識の逸脱が、過信・転倒恐怖感の減衰を招くことでFPSEが増加し、自身の能力以上の動作を行うことで転倒を生じさせたと考えられた。 </p><p>【結論】</p><p> 本研究では認知機能や注意・遂行機能の低下が転倒に対する恐怖感を減衰させ、高齢者の転倒を生じさせる可能性が示唆された。 </p><p>【倫理的配慮】</p><p> 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。また、武庫川女子大学の研究倫理委員会より承認を得て行った(承認番号No.21-105)。</p>

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