起立動作と立位における制御可能な骨盤移動距離との関連

DOI
  • 尾藤 志帆
    医療法人北辰会西条市民病院 リハビリテーション部
  • 百田 雅治
    医療法人北辰会西条市民病院 リハビリテーション部

抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p> 基本動作である起立動作は移乗や歩行開始など生活の起点となり,頻繁に行われる.起立動作は身体重心を前上方へ移行,かつ支持基底面は足部へ変位する.つまり重心位置を前方に移動し垂直方向へ高くなるとともに狭小した支持基底面内に制御するダイナミック性が必要である.その結果,身体重心である骨盤の移動距離拡大は立位で身体制御可能な幅を拡大する要因と考え,本研究では起立動作と骨盤移動距離との関連を調査することを目的とした. </p><p>【方法】</p><p> 対象は当院の回復期リハビリテーション病棟に入院し,退院時に杖歩行や独歩自立となった60歳以上の男女18例.測定期間は退院から5日前までとし,測定項目は起立可能な最低座面高,骨盤移動距離の他,大殿筋筋力,大腿四頭筋筋力,下腿三頭筋筋力,リーチテスト,10m歩行速度,TUGとした. 起立動作は昇降椅子を使用し,両下肢のみで起立可能な最低座面高を測定.身長差を考慮し,膝蓋骨上縁から床面の距離を除したもの(以下:補正座面高)を採用.骨盤移動距離の測定は上肢下垂位, 膝関節伸展位での立位を基本肢位とし,前後左右を測定.前方は上前腸骨棘を基準とし,最大限前方へ移動させた距離を測定値とした.同様に後方は尾骨,側方は大転子を基準とした.統計解析はスピアマンの順位相関係数を使用し有意水準は5%未満とした. </p><p>【結果】</p><p> 補正座面高と骨盤の前後方向の移動距離は相関 (r=-0.62,P<0.05),補正座面高と下腿三頭筋筋力は相関がみられた(r=-0.49,P<0.05).その他補正座面高と歩行速度で相関がみられた. </p><p>【考察】</p><p> 起立動作は重心を前上方へ移動させ,低い座面ほど,股関節屈曲角度が増大し骨盤が後傾する.そのため重心の前方移動と立位に向け,多くの骨盤前傾が必要である.一方,身体重心は第2仙骨前 方に位置する.本研究の骨盤移動距離の測定は最大限に骨盤を移動させ,かつ身体が安定する制御を行う必要がある.また骨盤前方移動に伴い骨盤は前傾,後方は後傾する.骨盤移動範囲が広い,つまり幅広い重心位置を選択できることは身体安定制御に寄与し,低い座面からの起立動作遂行の一助となったと考える.重心の上方移動は抗重力筋の筋力が必要であり,低い座面ほど筋活動は多い.また下腿三頭筋は立位において足圧中心の制御も担い,本研究でも下腿三頭筋との相関がみられた.今後は測定精度の向上に加え,対象患者の男女差や,脊椎の骨アライメント,下肢筋力の特性などを考慮し,調査を続けていく. </p><p>【倫理的配慮】</p><p>当院の倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には紙面にて研究の内容を説明し同意を得ている.</p>

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