化学工業従業員に対する転倒・腰痛対策

DOI
  • 川村 有希子
    独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター 株式会社三菱総合研究所 イノベーション・サービス開発本部
  • 川又 華代
    独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター 中央労働災害防止協会 健康快適推進部
  • 位高 駿夫
    独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター 株式会社ハイクラス 情報発信・研究事業部
  • 甲斐 裕子
    独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター 公益財団法人明治安田厚生事業団 体力医学研究所
  • 赤前 幸隆
    独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>厚生労働省によれば、近年「転倒」および腰痛等を含む「作業行動」に起因する労働災害 (以下:労災)の増加がみられ、全体の約4割を占めている。2023年度から5年間を計画期間とする第14次労働災害防止計画では、重点対策の中に、「労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 」や「高年齢労働者の労働災害防止対策の推進」が含まれる。これらの対策には身体機能へのアプローチが有効と考えられるが、本邦では、企業内でそのような労災防止対策を推進した報告は少ない。今回、事業場の転倒・腰痛対策を目的とした身体機能への介入支援を行ったので報告する。</p><p>【方法】</p><p>対象は、2022年5月~8月に神奈川産業保健総合支援センターの「健康応援!ゼロ災無料出張サービス」(以下、本事業)にて支援した、危険物荷役・管理業務を行う化学工業の従業員 (32名)。本事業は、労災防止に向けた労働者の健康保持増進を目的として2021年に開始した、身体機能評価や転倒・腰痛対策等に知見を持つ理学療法士・健康運動指導士等の企業への派遣事業である。本事業方針に則り、①管理者ヒアリングおよび職場巡視による課題抽出②従業員の転倒・腰痛等の実態・意識についてのプレアンケート③従業員への教育セミナー④ポスト (介入1か月後)アンケートを実施した。アンケートは、基本属性、転倒歴、転倒への不安、腰痛歴、疼痛、対策実施状況、体力への自信、運動習慣、満足度 (ポストのみ)、意識変化 (ポストのみ)等を収集し、集計結果を比較した。</p><p>【結果】</p><p>アンケート有効回答者数はプレ:27名(84%)、ポスト : 25名 (78%) であった。過去1か月以内の転倒経験者はプレ: 4名 (15%,うち2回以上が2名 (7%))→ポスト:3名 (12%,うち2回以上が0名 (0%))であった。転倒対策は、「慌てない」」と 「階段を使用するときは手すりを持つ」が11名→16名 (+23%)、 「自分の体調を意識する」が7名→11名 (+18%)へ増加した。 一方、過去1か月以内の腰痛経験者は15名 (58%)→9名 (38%)、 「疼痛」のNRS平均は3.7→3.4に減少した。腰痛対策は、「何もしていない」が6名 (22%)→1名 (4%)へ減少した。</p><p>【考察】</p><p>本事業の支援により、転倒・腰痛の軽減につながった と考えられる。身体機能面へのアプローチが鍵となる、転倒災害および作業行動に起因する労災の防止に向けて、本事業による支援は、一つのモデルとして有効である可能性が示唆される。</p><p>【倫理的配慮】</p><p>対象者のアンケートへの同意およびデータの学術的利用について、調査票冒頭に記載し、アンケートへの回答をもって同意を得たものとした。なお、回答者の不利益防止のため、事業場で個人が特定できないよう本調査票には個人情報は含めなかった。また、企業が特定されない形での学術利用について、事業場にも同意を得た。</p>

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