実習指導に対する自己効力感の低下によってワークエンゲージメントへ影響が生じた従業員へ実行したマネジメントの事例

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抄録

<p>【はじめに】</p><p>臨床実習に関する研究は多岐に渡るが,指導者の心理的状態に着目した研究は少ない.マネジメントの教育を受ける機会の少ない療法士にとっては,実習指導や従業員教育が負担になることが懸念され,ワークエンゲージメント (以下 WE)に関わることが予想される.そこで,通所介護施設で作業療法学科の学生に対する臨床実習指導にあたった従業員の自己効力感とWEが低下したことに対し,問題構造化手法などを用いてマネジメントを行った経験を得たため報告する. </p><p>【症例紹介】</p><p>本対象となる従業員 (以下A氏)は20歳後半の女性の作業療法士である.業務経験年数は4年,勤続年数は1年7ヶ月の正職員であり,8週間の臨床実習指導のケースバイザーを担当した. </p><p>【経過】</p><p>A氏の実習前をX日とし,その日のWEをUtrecht Work Engagement Scale (以下UWES)短縮版にて評価し, 40/56点であった.また,人格特性的な認知傾向を示す特性的自己効力感 (以下GSE)は63点,実習指導および自身の臨床能力に対する自己効力感をVisual Analogue Scale (以下VAS)で示し,それぞれ80点,60点であった.実習前面談では実習指導に対 して前向きであり,自主的に指導内容や日程管理を行っていた.実習開始3週目より,徐々に普段できていた業務を失敗するこ とが多くなってきたため,X+30日目に再びUWES短縮版と GSEおよび実習指導・臨床能力の自己効力感の測定を実施.結果はそれぞれ23/56点,56点,20点,30点と大きく低下.そこで,本人との面談と管理者への聞き取り,行動観察を実施.それらにより臨床指導の自信喪失や実習以外の業務管理が不十分なことが問題点として挙げられた.そこで,A氏と課題とその原因を可視化して要点整理を共有するために問題構造化手法を用いた面談を実施.課題の背景や対策案も併せて共有した.また,その内容を元に定期的な経過観察を実施し,進捗状況に合わせて指導内容を見直した. その後は,徐々に前向きに実習指導や業務に取り組めており, X+45日目に再評価を行ったところ,UWES短縮版が37/56点, GSE61点,実習指導および臨床能力の自己効力感がそれぞれ50点,60点と改善した. </p><p>【考察】</p><p>課題や対策案を可視化および共有したことでWEと自 己効力感の回復に至ったと考えられる.実習指導を行う従業員の心的負荷の軽減のために,フォロー体制や課題解決の手段を可視化すること,状態を定量化して評価することは重要である. </p><p>【倫理的配慮】</p><p>A氏にはヘルシンキ宣言に基づいて説明と同意を口頭にて行った.</p>

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