自動車製造工場に勤務する労働者の転倒・転落予防事業への関わり

DOI
  • 石川 響
    コミュニティーホスピタル甲賀病院 リハビリテーション科
  • 矢倉 千昭
    聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 我々は,静岡県浜松市にある本田技研工業トランスミッション製造部の安全衛生課・健康管理センターに協力し,工場内で発生した転倒・転落事故の現場検証と再発防止対策,工場の転倒 ・転落予防事業に携わる機会を得た.理学療法士が産業保健分野に介入した貴重な経験であり,理学療法士の社会的役割と職域拡大の一助となると考え報告を行う. </p><p>【方法】</p><p> 我々は,工場内の階段で発生した転落事故の現場検証を行い,環境整備を提案し,改善を行ってもらった.また,健康診断と体力測定のデータ分析を担当し,労働集団における転倒・転落の関連因子の分析を行った.分析の結果から,安全衛生課・健康管理センターに協力し,転倒・転落予防事業の計画,実施に携わった.計画と実施にあたり、月1回の整合会に参加し,事業の支援に携わった. </p><p>【結果】</p><p> 環境整備を行った階段については,照度調節や蛍光テープを用いた視認性向上の提案を行い,今のところ転落事故の再発はない.しかし,別の階段にて転落事故が1件発生し,最下段の蛍光テープを用いた視認性工場の提案を行った.また,健康診断 ・体力測定の結果から,下肢筋力,閉眼片脚立位時間,膝・足 関節の痛み,靴のすり減りの有無が転倒・転落に関係していた.事業計画では,動画配信,出前体操教室,ウォーキングイベントの実施に協力した. </p><p>【考察】</p><p> 産業保健分野における理学療法士の役割は,労働者の健康を作業管理,健康管理の面からサポートし,企業の生産性向上に寄与することである.少子高齢化が進行している日本において,腰痛などの筋骨格系障害や転倒・転落による休職や離職を予防することは大きな課題となっている.理学療法士が産業保健分野に参入するニーズは大きいと考えられるが,活躍している理学療法士は少ない.また,産業保健分野に関する理学療法のエビデンスが少なく,企業の理学療法士に対する認知度が低いため,業務内容が確立されていない.今後,理学療法士が企業の健康経営に携わることによる有効性をアピールし,認知度を高め,職域拡大につなげていきたいと考えている. </p><p>【倫理的配慮】</p><p>本報告にあたり,協力先の企業に対して学会発表を行う許可を得ている.また,個人の特定や不利益になる情報は含まれていない.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ