機能解剖学的視点から見た腱障害の予防理学療法

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  • 江玉 睦明
    新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科

抄録

<p>代表的な腱障害の一つとしてアキレス腱 (AT)障害が挙げられる. AT障害は,慢性化しやすく難治性であるため,有効な予防法 の確立が急務である.また,2018年にFCバルセロナと国際サッカー連盟が共催で実施したカンファレンスにおいて,AT障害発生メカニズムの解明と,予防法の確立の必要性が強く世界に発信されたことから,AT障害の予防は,スポーツ愛好家からトップアスリートまで幅広い層において最重要課題であるという認識が急速に広まった. AT障害の発生要因については,AT中央部の血流が乏しく横断面積が小さい部位が,AT障害の好発部位であるという解剖学的特徴から,これまでは後足部外がえしによってATに強い負荷が加わることでAT障害が発生すると考えられてきた.さらに近年では,下腿三頭筋活動時のAT内の負荷が不均一であることから,ATの特徴的な3次元構造である「捻れ」が発生要因の一つとして注目されている. そこで我々は,このATの捻れ構造に着目して,大規模な解剖学的検討を実施し,ATを腓腹筋・ヒラメ筋に区分して捻れの走行と踵骨形状を指標とすることで,軽度・中等度・重度の3つの捻れのタイプに分類した(Edama M, SJMSS, 2015a; 2015b; J Anat, 2016).さらに,3D構築したATのシミュレーションから,中等度の捻れのATは,強い衝撃や大きな可動性に対応できているのに対して,軽度と重度の捻れのATでは,後足部外がえしの時に加わる負荷が強く不均一であることを明らかにした(Edama M, Surg Radiol Anat, 2019).これらの結果から,程よく捻れている「中等度」のATは,強い衝撃や大きな可動性に耐えうる機能を有しているが,捻れの程度が弱い「軽度」と捻れの程度が過度な「重度」のATは,AT障害発生のリスクが高まる可能性が示唆された. 次に,ATの捻れの程度と力学的特性との関係を検討した.力学的特性としては,腱の硬さを表すスティフネスとヤング率,腱のバネとしての性質を表すヒステリシスを計測した.その結果,ATの捻れの程度が「軽度」では力学的特性が低下していた.胎児遺体を対象に捻れ構造を検証した結果,胎児において既に高齢遺体と同様の捻れ構造を呈していた(Edama M, Surg Radiol Anat, 2021).したがって,AT障害は様々な年代で発症する疾患であるため,可塑的変化が期待できる力学的特性にアプローチすることで発育・発達過程を含め,一生涯を通して腱障害発生を予防できることに繋がる可能性が示唆された </p><p>【倫理的配慮】</p><p>新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した.</p>

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