『人民日報』による計画出産とその緩和の正当化

  • 宋 円夢
    京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻社会学研究室博士課程

書誌事項

タイトル別名
  • Discourse and Justification on the Two-Child Policy in People’s Daily and the Changes of Biopolitics in China
  • ―現代中国社会における生権力のあり方の変化―

抄録

<p>本稿は,中国における計画出産の実施・緩和に関して,官製メディアの『人民日報』がどのような言説を構築してその正当性を確保しているか,そこからどのような「生権力」のありよう,変貌がみられるかを探求するものである.</p> <p>一人っ子政策期は,優遇措置の実施や「素質」言説の構築により,政策に服従し自発的に1人しか産まない「服従する主体」が求められていた.計画出産が緩和された初期には,新たな人口問題,人々の2人産みたいという希望,一家団欒が重要視されたことから,政策転換の必要性が広報された.それが順調に機能しなかったため,次の段階では,人々の出生意欲と出生行動のずれ,つまり,「産みたいが産まない,産めない」という状態に導いた現実的理由が重要視され,それに対応して子育て支援の施策が導入されていることを広報する,新しい戦略がとられた.</p> <p>政策転換の過程において,公共の利益から個人の実際の需要へと統治の正当性を支える説明に変化がみられた.国家による人々の身体への強制的直接的な介入と服従する主体の構築は減少し,その代わりに人々の生の声や主体性を尊重する姿勢が示されている.国家は人々の周囲の環境に介入し,「子育て支援が充実しているため,皆が喜んで産んでいる」という新たな家族規範を創出することで,個人の心・内面まで細かくケアして,喜んで自己統治をする主体の構築を試みるという,生権力のより洗練されたあり方が登場した.</p>

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参考文献 (12)*注記

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