古代浦島説話における「玉手箱」開箱と韓朋譚 : 中国尉犁(イリ)県出土「韓朋賦」断簡・ベトナム瑶(ヤオ)族民間古籍『韓朋伝』に見える開箱の記述との比較考察

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  • The Opening of the Tamatebako in the ancient Urashima fables and the Tale of Han Peng(韓朋):Comparison with the description of the opening the box found in the fragment of Han Peng Fu (韓朋賦) excavated from Yili County, China and Han Peng Den (韓朋伝), an ancient folk tale of the Vietnamese Yao tribe

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抄録

『丹後国風土記』逸文や『万葉集』『浦島子伝』『続浦島子伝』など、多くの古代文献に記された浦島説話については、民俗学、伝承文学、日中比較文学などさまざまな方面からのアプローチがなされているが、特に中国の劉阮天台説話とは、異界訪問、異界での仙女との結婚、主人公が人間界に帰還すると何世代もの時間が経過している、など説話の主要なプロットが類似しており、両者の関係の深さは古くから指摘されてきた。しかし浦島説話には劉阮天台説話には見えない重要なプロットが一つだけ存在する。それが仙女が別れに臨んで主人公に手渡す玉手箱(玉匣・玉篋)の禁忌の話である。この玉手箱の禁忌の話についても各方面からの言及がなされているが、ほとんどは浦島説話が記された文献からの考察であり、中国の類話として報告された文献も、「箱を開けてはならない」という禁忌が記されていなかったり、禁忌の内容や結末が異なっていたりするなど、浦島説話を記した各文献と逐一比較検討するのに堪えるだけの類似性を持った中国の文献は存在していなかったといってよい。ところが今般、金文京氏は中国尉犁県出土の唐代のものと推定される「韓朋賦」断簡に、敦煌変文の「韓朋賦」には見えない「再会を望むならこの箱を絶対に開けてはならない」という禁忌が破られ箱が開けられたために再会が叶わなくなる話柄が記されていること、そしてこの話柄はベトナム瑶族に伝わる「韓朋伝」にも見えることを報告された。ここにおいて浦島説話の玉手箱の禁忌の話は、初めて自らの〈外〉に唐代まで遡れる比較考察の対象を得たことになる。本稿では金文京氏の報告に導かれながら、古代の文献資料に記された浦島説話に見える玉手箱の開箱に関する記述と、尉犁県出土「韓朋賦」断簡やベトナム瑶族の民間古籍「韓朋伝」における開箱に関する記述との比較を行い、古代浦島説話における玉手箱の開箱の記述についての私見を述べたい。

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