「傾斜とたたかう機械」

DOI
  • 山口 浩和
    国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

書誌事項

タイトル別名
  • Machines Overcoming Terrain Challenges

抄録

<p>日本の人工林は本格的な利用期を迎え,国産材の供給量も増加傾向にあります。これらの森林資源を循環利用していくためには,主伐とその後の再造林をさらに進めていかなければなりません。労働力が減少している中において,国内の木材生産量を高めていくためには,高性能林業機械等を活用した作業システムの導入を進め,生産性を向上させていくことが不可欠です。また同時に,他産業と比較して10 倍高いといわれる林業における労働災害発生率を低減させることが急務の課題ともなっており,人力作業を機械に置き換えることで,森林作業の安全確保を図っていかなければなりません。高性能林業機械の導入台数(林野庁2023)は,令和元年に10,000 台を超えました。しかし,日本の森林の多くは山地にあり,世界のほかの地域と比較して急傾斜地の割合が高く,伐倒作業や造林作業は,その多くが未だに人力作業に頼っている状況です。いかに地形を克服するかが機械化において常に課題となってきました。これに対して,機械メーカーや研究機関ではさまざまな機械や技術の開発が試みられてきましたが,広く普及するまでには至っていませんでした。しかし,近年,新たな技術,あるいは技術の見直しにより,傾斜克服する試みがみられるようになってきました。そこで,2023 年度の森林利用学会の活動テーマには,改めて傾斜地で活用される機械,技術に焦点があてられることとなり,本特集号では「傾斜とたたかう機械」というテーマで特集を組むことと致しました。 38 巻1 号における原稿募集の案内では,「たたかう」は多様な意味をもたせるために,あえて「ひらがな」としているとされ,機械のみならず,作業システムや路網,そのほか,広く傾斜を克服するための研究に関する原稿を募集しました。その結果,論文1 報(山口ら2023),速報1 報(鈴木ら2023)が掲載されることになりました。 以下,簡単に内容をご紹介いたします。 山口らの技術論文は,再造林が進まない現状を打開するため,生産性向上と労働負担の低減を目的として,人力作業で行われている作業の機械化を図るため,作業者が手で保持しながら林地を移動する形の小型電動機械とアタッチメント型の作業機を開発し,現地への適用を試みています。その中で,小型機械でも荷物を積載した状態でも十分な登坂性能があり,走行部を1 輪とすることで機動性が大きく高まり,伐根等を容易に回避して林地を走行できることや,作業者が補助することで段差等の局所的な地形克服できることを示しました。また,安全な作業が何よりも重要であるという認識で,荷物を積載した下り斜面においても車両が滑走することがなく安全に運搬できることを確認しています。実証効果では,苗木の運搬作業,作業アタッチメントによる植栽作業ともに,開発した1 輪車を用いて労働負担が大幅に軽減されることを明らかにしました。本研究は,木材生産活動における脱炭素化が求められる中において,小型機械であるものの電動技術をいち早く取り入れたことにも特徴があります。 鈴木らの速報では,ライブスカイライン式軽架線集材を取り上げ,集材木の吊り上げ能力を確保するための作業条件について,搬器に働く力を静力学モデルにより検討しました。搬器の荷掛けフックを動滑車とし,作業索を取り回すことで,巻き上げ時に荷上げ力を倍力化し,搬器が元柱方向へ滑走することを防ぐ方式で,荷上げ時に搬器が係留するための条件を,現場の地形条件,横取りを含めた荷掛位置等の作業条件から,モデルを用いたシミュレーションにより明らかにするとともに,現場における実測試験の結果等からモデルの有効性を示しました。シミュレーションでは,動滑車を介さない1 倍力では係留力はほとんど発生しないが,2 倍力,3 倍力とすることで係留できる作業条件が増加すること,また主索傾斜角が大きいほど,横取り角が小さいほど,あるいは荷掛け位置が搬器から遠いほど,係留力が大きくなる結果となりました。一方,2 倍力,3 倍力では,1 倍力よりも作業索の引き出しに労力を要することになるため,実際の運用では2 倍力を基本とし,大径材等への対応時に3倍力を用いる方式が良いと提案しています。軽架線は,低投資で可能な集材システムとして小規模林業事業体でも取り入れることができるため,現場作業においてすぐ応用できる結果が示された報告であるといえます。 本特集号の掲載論文では,造林作業と伐出作業に関して,比較的小規模林業事業体でも導入しやすい実用的な機械に関する研究が紹介されました。これらの報告のほか,本テーマに関する近年の動きとしては,まずは10 年ほど前から海外でみられるようになってきたウインチアシスト(あるいはテザー)システムが,国内実証が始まったことがあります。ウインチアシストの考え方自体は,新しいものではありませんが,海外での適用事例が増えるにしたがって,日本でも技術が見直されることとなり,新たに林業用に開発されたものです。林地条件が欧州のような一様ではない「しわ」の多い日本の現場にどのように適応させられるのか,今後それらの報告が学会誌等で紹介されることと思います。また,電動技術が進展し全産業的にUAV の活用が進みましたが,林業においてもすでに森林計測や苗木運搬等において導入実績が増えてきました。さらに,試験的な試みではありますが,小型電動4 足歩行ロボットなども実証実験が行われています。かつては油圧式の6 脚歩行ロボットなども開発されましたが,電動技術によって動的歩行による移動速度向上や様々な状況に対する瞬時の対応力が進化し,実用的な技術となってきました。このように以前に検討された機械も,新たな技術との融合により見直された事例でもあります。 新たな機械や作業システムの導入によって,機械が人力作業に代わることができれば,生産性および安全性の向上が期待される一方で,新たなリスクも生じる可能性があります。これらについては,森林利用学会において議論を深めていき,新たな技術をより安全で効果的に利用するための作業条件や作業体系を示していく役割があるかと思います。 最後に,本特集号の発行にあたって,限られた期間で査読を行っていただいた皆様に,この場を借りてお礼申し上げます。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018198843716864
  • DOI
    10.18945/jjfes.39.3
  • ISSN
    21896658
    13423134
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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