[招待講演]水理学的モデル計算に基づく沈み込み帯における有効垂直応力の深度分布

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  • [Invited] Depth variation of effective normal stress in subduction zones based on hydraulic modeling
  • <b>【ハイライト講演】</b>

抄録

<p>脆性領域における岩石強度は、摩擦係数一定の条件では、有効垂直応力(垂直応力と間隙流体圧の差)の増加に伴って線形に増加する。特にプレート沈み込み帯では、局所的に低い有効垂直応力とスロー地震の発生との関係が、地震学的および測地学的な観測から示唆されてきた。Rice (1992) は、物性値一定の流体が鉛直横ずれ断層帯に沿って流れるモデルを考えて、断層帯の透水係数が有効垂直応力の急激な減少関数である場合、深部での有効垂直応力がある値に漸近することを数学的に示した。一方で、Riceのモデルを直接他のテクトニクス場に適用することの是非については疑問の余地が残る。Riceのモデルを発展させて沈み込み帯に適用可能なモデルを構築し、それに基づいて有効垂直応力の深度分布を定量的に評価することで、スロー地震の発生に関する議論を深めることができると期待される。本研究では、沈み込み帯浅部の脆性領域における局所的な有効垂直応力の減少を引き起こす要因について定量的に調べるため、沈み込み帯に特徴的な過程を考慮した水理学的モデルを構築し、モデル計算を行った。代表的な沈み込み帯として南海トラフ熊野沖に着目し、モデル計算時の物性値として掘削コア試料の室内実験データを参照した。基本モデルでは、堆積物の沈み込みに伴う力学的効果(例えば圧密)およびスメクタイトの脱水反応を考慮した。物理的に妥当な解(有効垂直応力が負になったり発散したりしない解)では、Rice (1992) と同様に有効垂直応力の勾配が深度の増加に伴って急激に減少するものの、現実的な流体物性を導入した影響で、深部において有効垂直応力がある値に漸近する傾向は見られなかった。また、有効垂直応力は深度の増加に対して常に単調増加であり、局所的に低い有効垂直応力の存在は確認できなかった。分岐断層への流体の流出を考慮した場合でも、有効垂直応力の局所的な減少は実現されなかった。しかし、シリカ析出などによって局所的に透水係数が減少した場合、その領域で局所的に有効垂直応力が低くなることがわかった。このことから、透水係数の局所的な減少が、浅部スロー地震の発生を引き起こす要因である可能性が示唆された。スメクタイトの脱水反応による有効垂直応力変化それ自体は支配的な要因ではないものの、反応時に放出されるシリカの析出によって透水係数の減少が促進される可能性がある。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018285211737856
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_10
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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