相模原市周辺の1923年関東地震の伝承碑

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  • The memorial monuments from the 1923 Kanto Earthquake in Sagamihara area, Kanagawa Prefecture, central Japan.

抄録

<p>2023年(令和5年)は,1923年関東地震(以下、関東地震と呼ぶ)が発生して100年にあたる.関東地震は1923年(大正12年)9月1日に発生し,東京都および神奈川県に甚大な被害を及ぼした(宇佐美,1996;国立天文台,2022).神奈川県内では川崎から小田原にかけての県南部での被害が大きく(神奈川県,1982),さらに神奈川県中南部では1924年(大正13年)1月15日に発生した余震による被害も重なった(宇佐美,1996).この余震は丹沢地震または丹沢山地震とも呼ばれ,関東地震の最大余震とされている(宇津,1979;国立天文台,2022).相模原市内では神奈川県南部に比べ被害は大きくなかったものの,多くの建物が倒壊し,土砂災害が発生している(相模原市,1971;山口,2015).関東地震に係る記念碑や慰霊碑などは神奈川県各地に残されており(例えば,武村ほか,2014),自然災害を後世に伝えるための有効な手段の一つとなっている.演者らは相模原市および周辺地域の関東地震・丹沢地震に係る石碑などの石造物について現状を確認するために現地調査を実施している.相模原市内に残されている関東地震に係る石碑などについては,岡本(1989),相模原市(2009;2010)および武村ほか(2014)を参照した.このうち,自然災害伝承碑(国土地理院HP 自然災害伝承碑)に記載されているものは2つのみで,ほとんどのものは,震災記念植樹碑や植樹標柱である.自然災害伝承碑とされているものは相模原市緑区鳥屋と相模原市南区下溝に建立されたもので,どちらも土砂災害が発生した場所である.相模原市緑区鳥屋の土砂災害発生場所付近は地震峠と呼ばれ,斜面崩壊による土砂のため16人の方が犠牲になり,また,付近を流れる串川を堰き止めた(山口,2015).崩落土砂に含まれる岩塊から判断して,新第三系丹沢層群の火山砕屑岩からなる山腹斜面が崩壊したと考えられる.相模原市南区下溝の土砂災害発生場所は宮坂と呼ばれ,十二天社に立つ石碑によると地震により坂道が土砂崩落のため通行できなくなったとのことである.この十二天社は段丘崖の麓に位置し,段丘崖を構成する関東ローム層が崩落したと考えられる.そのほか相模原市内で多く見られる記念植樹に関する石碑や石柱は,「関東大震災記念植樹」などの文字や日付,建立者の名前が刻まれているだけである.また,植樹された樹木そのものがすでに伐採されていたり,花崗岩製の標柱に刻まれた文字は、風化により判読が困難になっている場合もある.丹沢地震は情報に乏しく,伝承碑については地理院地図 自然災害伝承碑(地震)を参照し,現在のところ4か所を現地で確認している.これらの石碑の場所は藤沢市が2か所,伊勢原市と厚木市がそれぞれ1か所づつである.いずれも丹沢地震単独ではなく,関東地震の石碑に併記する形で丹沢地震について地震発生時の様子や被害状況が記述されている.石碑の文面から関東地震と丹沢地震を一連の地震として当時の人々がとらえていたことが窺える.相模原市内では丹沢地震関連の石碑などは確認されていないが,家屋の倒壊などの被害が大きく,関東地震よりも揺れが大きかったと証言する人もいたようである(山口,2015).相模原市内では自然災害伝承碑とされているものは少なく,多くのものは記念植樹の石碑・石柱である.これらは直接被害状況が刻まれておらず,後世の人々に災害を伝承する効果は小さいかもしれない.しかしながら,相模原市内は比較的被害が小さかっただけで,被害は受けている.震災を記念して石碑などを建立したり,植樹した先人たちの思いを文字通り“風化”させないためにも,これらのモニュメントを後世に残す取り組みが必要であろう.神奈川県,1982,神奈川県史 通史編5,231-292.国土地理院ホームページ 自然災害伝承碑,https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html.国立天文台,2022,理科年表2023,774-811. 岡本芳雄,1989,郷土相模原,no.15,114-129.相模原市,1971, 相模原市史第四巻,1-62. 相模原市,2009,旧相模原地域石造物・景観調査報告書(20年度),p133.相模原市,2010,旧相模原地域石造物・景観調査報告書(21年度),p150.武村雅之・都築充雄・虎谷健司,2014,神奈川県における関東大震災の慰霊碑・記念碑・遺構(その1 県中央部編),p100.宇佐美龍夫,1996,新編日本被害地震総覧,31-493. 宇津徳治,1979, 東京大學地震研究所彙報,54,253-308.山口 清,2015,津久井町史 通史編 近世・近代・現代,659-678.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018285211898624
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2023.0_387
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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