初級ヒンディー語教育における児童書の活用

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  • Teaching Elementary Hindi through Children’s Books
  • ショキュウ ヒンディーゴ キョウイク ニ オケル ジドウショ ノ カツヨウ

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抄録

教育実践報告

本稿の目的は、初級ヒンディー語の学習において、児童書を用いる利点と課題を検討することである。現在、インターネット上で膨大な数の語学教材にアクセスできる時代になったが、初学者にとってその信憑性を判断することは困難だろう。このような状況を踏まえ、筆者が実際に大阪大学ヒンディー語専攻1年生の授業で3編の児童書・物語を使用した例を紹介しつつ、児童書の活用について考察する。最初の例として、“Khicṛi ... Ek Lokkathā”(『民話キチュリー』)を見ると、日本人学習者にとって難解な文法事項が、簡易な短文に含まれている。同じ表現がさまざまな場面で使われていることにより、学習者は具体的な用法になじむことが期待できる。物語の背景も有意義であり、登場人物を通して家族制度や親族名称を、食事の場面からは食文化に関連する語彙や知識を習得できる。何よりインドの子供を対象として書かれているため、ごく自然なヒンディー語の文章に触れることができる。次に、“Mammī kī Mez”(『ママのデスク』)では挿絵も有益である。文章に出てくるモノすなわち名詞を挿絵に書かれたモノから探し出すことにより、日本人が見落としがちな名詞の単数・複数を意識することに役立つ。また、この作品は場面によって動詞の時制が明確に使い分けられているため、学習者は「繰り返しの動作」と「一回だけの動作」を表す時制のニュアンスの違いを場面に即して学ぶことができる。最後の“Suar kā Dost”(『ブタ君のともだち』)は一見素朴な動物たちの友達づくりの物語だが、彼らの会話を介して、差別や疎外といったインド社会の内実を垣間見ることができる。これらの物語の目的は子供たちを楽しませることであるから、繰り返し読んだり、暗唱するといった、初級の学習に有効な作業も必然的に楽しんで行えるという長所を併せ持っている。一方、課題としては、授業に適した物語を見つけることが非常に困難だという点である。授業で求められるものは、文法的に正しく、標準的な文章である。あまりに口語的であったり、綴りが不正確な場合、説明や指導が煩瑣になり、結果的に学生も気が散ってしまいかねない。分量も大きな鍵である。さらに内容だが、あまりにかわいらしい、当たり障りのない物語では大学生には物足りない。しかしこの点では出版社側も「子供に対してどんな内容でも語り掛けよう」という姿勢を示しており、今後さらに期待が持てる。以上のことから筆者は、体系的に文法を学んだ上で、それを補う形で物語を取り入れることが理想的と考える。日本の生活ではたしかにヒンディー語に触れる機会は少ないが、裏を返せば、学習環境を選び、作ることができるともいえる。効率的に、きちんとしたヒンディー語を学ぶために、児童書は実用的な手段のひとつだといえるだろう。

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