国立大学の災害対応組織における地理学研究者の取り組み

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タイトル別名
  • Commitment of Geographers in University Disaster Response Organizations

抄録

<p>1. 大学組織における災害対応部局</p><p> 大学組織においては,特に近年は地域貢献の重要度が増しており,立地する地域社会に対し研究機関として調査研究の成果を還元すべきとの認識が浸透している。中でも,災害と防災・減災に関する地域社会への還元の要請は高く,研究機関に寄せられる期待は高まっている。このような背景の中,全国の大学に「防災」,「減災」,あるいは「レジリエンス」といった名前を含む災害対応に関する研究センター等(以降,災害対応組織と呼ぶ)が設立されてきた。現在,86校ある国立大学のうち,半数近くの41校には災害対応組織等が設置されている。また,その41校の災害対応組織のうち30は,2011年の東日本大震災以降に設立されたり改組を経験しており,さらにそのうち半数以上の16の組織は,熊本地震以降に設置または改組された。</p><p> これらの災害対応組織の多くは,改組を繰り返して現在の組織に至っていることが多く,組織の母体としては工学系の学部・研究科であることが多い。しかし,災害発生のメカニズムや被害の地域性などを解明するにあたっては,地理学的視点による考察が不可欠であることから,災害対応組織における地理学研究者の知見は極めて重要である。本発表に際し,災害対応委員のうち主に国立大学に所属する委員48名に,本務校における災害対応組織とその活動,および地理学研究者の役割等について,Webによるアンケートを実施し,これまでに14件の回答があった。これらの結果をもとに,各大学における災害対応組織の活動と,地理学研究者の貢献や影響力,課題について整理する。</p><p>2. 災害対応組織の活動と地理学研究者の取り組み</p><p> 災害対応組織に関わる地理学研究者の活動として,広島大学では,平成30年7月豪雨直後に設立した広島大学防災・減災研究センターにおいて,兼任メンバーとして自然地理学研究者2名が参加している。これまで関わった業務としては,①広域災害が発生した際,空中写真や衛星画像等を利用した,原因となる自然現象や被害のマッピング,②学校への防災教育の指導,③地方自治体の防災教育コンテンツ作成の監修,④自然災害や防災に関する講演会の講師などがある。これらの業務は研究者単独でも行える内容であるが,センターを通じて実施することで,①研究内容の一般への認知度が高まること,②他分野との共同研究に繋がること,③学内における地理学のプレゼンスが高まることの意義があると考える。</p><p> また,具体的な災害発生時の活動事例として,愛媛大学では,平成30年7月豪雨に伴う被害の調査団が結成された。調査団の大部分を構成する工学・土木系の研究者や農学系の研究者により各個に現地調査が実施された。その中で地理学研究者は,人的被害,浸水範囲,土砂災害,農業被害,文化財被害,道路被害などをマッピングし,情報を共有した。このように被災地域で生じていることがらを俯瞰して,災害の全体像を把握するためには,地理学的な視点が不可欠であると考えられる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729477376
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_161
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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