生活用水システムの再構築と自治体の役割

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タイトル別名
  • Restructuring of domestic water supply and the role of local government
  • A case study in Higashikawa town in Hokkaido
  • ―北海道東川町を事例として―

抄録

<p>Ⅰ はじめに 日本では,水道によって水を供給する生活用水システムが普及している。水道は水系伝染病の防止を目的として,主要都市から整備され,高度経済成長期を経て全国的に整備され,普及した。水道の整備により生活用水における水利用は,利用者が直接,近在の水源から取水する従来の形態から,公的機関が近在の水源から取水し,利用者に供給する形態に移行した(肥田: 1995),さらに,山間部に建設されたダムなどの遠くの水源から取水し,より広域の利用者に供給する形態へと移行した。こうした水利用形態の移行により,水の管理をになう主体も水を共同して利用する地域社会組織から水道を運営する公的機関へと移行した。 水道による水利用形態における水源の近い水から遠い水への移行は水道広域化によるものである。水道広域化は,高度経済成長期における水需要の増加に対応するための水資源開発のなかで進められた。水資源開発を推し進めるため,公的機関による水の管理が強化され,水の管理は公的機関によって一元的に行われるようになった(森滝: 1982,嘉田: 2002)。水需要減少期に入った現在,水道広域化は,水道事業における料金収入が減少と老朽化施設の更新によるコスト増加という課題に対応するための政策として進められている。 こうした水道事業経営の課題を背景に,地域による水の管理をもとに生活用水システムの再構築が求められている。そのためには,地域においてどのように水を管理するのかが課題となる。本発表では,この課題について従来の水利用形態を継続している事例をもとに考える。研究対象地域は北海道上川郡東川町である。Ⅱ 東川町における水道事業の沿革 東川町では水道が整備されておらず,ほとんどすべての住民が個別に設置した井戸から地下水を汲み上げて,生活用水として利用している。こうしたなかで,農業における水需要の増加と市街地での井戸枯れの発生を背景に,ダム開発により水源を確保し水道を整備することが計画された。しかし,ダム建設が遅れたことにより,水道事業計画が見直され,水道の整備は休止となった。Ⅲ 生活用水源としての地下水の管理 水道事業計画の見直しを契機に,地下水の管理が開始された。町では地下水位の計測と町内の全世帯を対象とした水質検査をはじめとする地下水の量的・質的な管理を行っている。また,既存井戸の改修にかかる費用を補助する制度を整備するほか,他自治体と地下水管理の取り組みについての意見交換を行っている。他自治体との意見交換は地下水の保全と採取規制を盛り込んだ条例の改正につながっている。地下水管理の取り組みが行われる以前から,町では基幹産業である農業に由来する農村景観を保全する取組みが行われている。そのため,人口減少防止策として行われた土地開発公社による宅地開発では,農業および農村景観への配慮がなされた。これによって,人口増加による水需要の増加が抑制され,地下水の過剰利用によって生じる問題が防止された。 こうした行政の取組みのほか,農協では生産する米の品質向上およびブランド化を目的に,農薬の使用をできるかぎり少なくする取組みを行い,農薬による地下水の汚染を防止している。住民は,各家庭に設置された井戸の管理のほか,利用する水を汚さないように配慮するなどの取組みが行っている。Ⅳ おわりに 以上のように東川町では,従来の水利用形態を継続しているため,自治体を中心に在来水源である地下水が管理されている。生活用水システムを再構築するうえでは,在来水源を管理する自治体の役割が重要となると考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729479040
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_165
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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