一括型地域交付金が地域運営組織及びコミュニティに果たす役割

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タイトル別名
  • The roles of lump-sum-type community grants for regional management organizations and communities
  • A case study of the “Community Grant Program” in Rikuzentakata City, Japan
  • 岩手県陸前高田市の「地域交付金制度」を事例に

抄録

<p>I はじめに</p><p> 2000年代以降,日本では,諸政策においてコミュニティに対する期待が高まっており,こうした状況はしばしば,1970年代の第1次コミュニティ・ブームに続く,第2次コミュニティ・ブームと表せられる(筒井・小関2023).第2次コミュニティ・ブームにおいて特に注目を集めているのが,小学校区など,自治体内の部分地域において,地域社会の諸問題について話し合い・意思決定・活動等を行う地域運営組織や地域自治組織と呼ばれる組織である(以下,地域運営組織).平成の大合併以降,地方圏を中心に地域運営組織が増加しており(坂本ほか2013,服部・上野2015,Maeda 2020),名称や定義が極めて多様といった問題を抱えながらも,諸分野において研究が進められている(今里2020).特に地方圏の地域運営組織をめぐっては,集落機能の維持や合併後の旧町村の周縁化抑制に関する議論が盛んに行われているといえよう.一方で,地域運営組織は,都市内分権や自治内分権の観点からも着目されており,本報告もこの観点から検討する.</p><p> 中でも本報告が焦点をあてるのは,地域運営組織が使途を柔軟に決めることができる交付金(以下,一括型地域交付金)である.こうした交付金は,自治体から地域運営組織への分権と捉えることができよう.しかし,一括型地域交付金が地域運営組織やコミュニティにどのような役割を果たしているのかについては,研究途上といえる.</p><p>II 目的とデータ</p><p> 本報告は,陸前高田市が2019年に創設した一括型地域交付金制度である「地域交付金制度」を事例に,交付金の使途や使途の決め方を分析し,一括型地域交付金制度が地域運営組織及びコミュニティに果たす役割を検討する.使用する主たるデータは,2023年3月,11月,2024年1月(予定)に実施した現地調査の結果と,同市が公開している資料である.</p><p>III 研究対象</p><p> 陸前高田市は,三陸海岸に面する,人口18,262人(2020年国勢調査),面積231.9㎢の,岩手県南部の自治体である.2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は,同市に甚大な被害を及ぼした.同市の地域運営組織や一括型地域交付金は災害からの復興とも関わりがある.</p><p> 陸前高田市は,1955年に,高田町,気仙町,広田町,小友村,米崎村,矢作村,竹駒村,横田村が合併して発足した.同市の地域運営組織であるコミュニティ推進協議会は,合併前の8町村をベースに11地区に設置されている.1970年代に,都市型の生活様式の浸透に伴い地域活動のあり方が模索されるようになった.そうした状況のもと,市がコミュニティ施策を展開するようになる中,1980年に同協議会が設置された(菊池2009).本報告では全11地区のうち,市街地のA,B地区,漁業地域のC地区,中山間地域のD地区の4地区に特に焦点をあてて分析を行う.</p><p> コミュニティ推進協議会を対象とした地域交付金制度は,「地域住民が地域課題の解決に自ら積極的に取り組み,創意工夫することにより持続性の高い活力ある地域コミュニティの形成を図る」(陸前高田市2022[2024年1月18日最終閲覧])ことを目的に2019年に創設された.同交付金は,各地区に年間500万円を限度額として交付される.使途は,各地区で決めることができ,道路の修繕から文化活動まで幅広い事業が実施されている.市内では東日本大震災からの復興に関する各種事業が実施されているが,整備や補修が行き届いていないものも存在する.そうした中,同交付金制度には,地区ごとに優先度の高い事業を選択・実施することで,限られた資源の中で各地区のニーズに応える役割もある.</p><p>Ⅳ 結果・考察</p><p> C地区の2019〜2021年度の使途をみてみると,子どもの登下校を見守るボランティア活動の支援や,郷土芸能保存の支援といった比較的ソフトな事業が実施されている一方で,金額的に大きな割合を占めていたのは,道路の側溝に蓋を設置するといった,インフラ整備に関する事業であった.また,交付金の使途の決め方については,地区内の各集落に要望を照会するとともに,各集落が公平に恩恵を受けられるように調整するといったことが行われていた.</p><p> 発表では,A地区,B地区,D地区についても分析結果を報告するとともに,それらを踏まえ,一括型地域交付金制度が地域運営組織及コミュニティに果たす役割について考察する.</p><p></p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729557888
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_213
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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