リモートセンシングに基づく周氷河砂礫斜面の礫移動の空間分布

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  • Spatial distribution of gravel mass movement on periglacial smooth slope using remote sensing

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 周氷河砂礫斜面とは,高山帯の稜線沿いの風衝地に広がる凹凸の少ない平滑な斜面である(小泉,1992).斜面形成には礫移動が重要な役割を果たすとされており,先行研究では礫の移動量と礫径や傾斜などの関係が報告された(例えば,高山地形研究グループ,1978;相馬,1979;岩田,1980).これら研究では,斜面の礫上に描いたペンキラインの変化から礫の移動量が求められた.しかしながら,斜面全体での面的な礫移動の空間分布は明らかでなく,凍結融解作用に対する積雪の影響評価も十分ではない.そこで本研究では,飛驒山脈でも周氷河砂礫斜面の分布面積が最大である白馬連山の周氷河砂礫斜面において,差分干渉SAR(DInSAR)解析とイメージマッチング解析により礫移動の空間分布と移動する礫の環境要因を調べた.</p><p>2.研究手法</p><p>2.1 礫移動箇所の抽出と観測</p><p> 本研究では,礫移動の空間分布とその要因を調べるため,白馬連山(杓子岳,白馬岳,三国境)の周氷河砂礫斜面を対象に画像解析と現地調査をおこなった.差分干渉SAR(DInSAR)解析では,GAMMA SARソフトウェアを用いて2時期のALOS-2/PALSAR-2のSARデータの位相差から地表面変化箇所を抽出した.また,衛星視線(Line of Sight: LOS)方向の変位量(地表面と衛星の距離の変化)を算出した.</p><p> イメージマッチング解析は,2時期のオルソ補正画像から画像上の同一点を特定し,水平方向の移動距離と移動方向を明らかにする方法である.DInSAR解析結果を検証するため,2020年~2023年にUAV(DJI社製Phantom 4-RTK)から取得した画像とSfM-MVSソフトのPix4Dmapperを用いてオルソ補正画像と数値表層モデル(DSM)を作成し,2時期のオルソ補正画像を用いたピクセル・イメージマッチング解析から礫移動箇所を調べた.また,礫の移動様式や移動時期を明らかにするため,タイムラプスカメラ(Brinno社製)で60分ごとに撮影した.2.2 日周期の凍結融解の発生回数と積雪の関係</p><p> 礫の移動に関与する日周期の凍結融解の影響を検討するため,2か所で地温観測を実施し,0℃を上下する凍結融解の回数を計測した.また,セスナ空撮画像からDSMを作成し,4月と10月の差分から積雪深を求めた.</p><p>3.結果</p><p> 2020年9月8日と2021年9月7日の1年間画像ペアを用いたDInSAR解析の結果,白馬連山の周氷河砂礫斜面では広範囲で地表面変化が生じていることがわかった.DInSAR解析による地表面の変化箇所は,三国境および杓子岳の周氷河砂礫斜面でのイメージマッチング解析で得られた礫の移動箇所と一致した.地表面の変化箇所(=礫移動箇所)の空間分布をみると,礫の移動箇所は限定されており,周氷河砂礫斜面全体ではなく積雪が少ない場所で礫移動が確認された.また,稜線沿いの西側斜面において傾斜20度以下の場所では礫の移動はわずかだった.</p><p> タイムラプスカメラの観測結果から,日周期の凍結融解作用によって,夜間の地温低下とともに礫が持ち上がり,日中の温度上昇(8時~14時)に伴って礫が斜面下方に移動したことを確認した.地温観測の結果から,積雪の多い場所では凍結融解回数は年1回であったのに対し,積雪の少ない場所では2022年10~11月に8回,2023年4~6月に29回生じていたことがわかった.</p><p>4.考察</p><p> 礫移動の空間分布をみると,積雪が少ない場所で礫移動が確認された.これは,積雪がある場所は日周期の凍結融解が抑制されるため,礫移動が生じていないためだと考えられる.積雪分布は,周氷河砂礫斜面でも違いがあり,斜面ごとでも大きく異なることから,積雪分布も含めた礫移動の空間分布を今後検討していく必要がある.また,約20°以上の傾斜は礫移動の要因の重要な環境要素であることが示唆された.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729569920
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_232
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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