2019年東日本台風による福島県いわき市夏井川下流域での洪水災害の特徴

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  • Characteristics of Flood Disaster Caused by 2019 East Japan Typhoon in the Natsui River Basin, Iwaki City, Fukushima Prefecture.

抄録

<p>Ⅰ. はじめに</p><p>近年、日本各地で豪雨災害が激甚化・頻発化している。福島県南東部を流れる夏井川は延長67km、流域面積748.6㎢、流域人口約15万人の二級河川で、2019年に発生した東日本台風では、下流の狭い範囲で、右岸2か所、左岸6か所、合計8か所で堤防が決壊し、広範囲の浸水被害により、下流域約4kmの範囲で7人の溺死者が発生した。そこで、本研究では、この2019年の豪雨災害を対象とし、大規模な浸水氾濫の実態と、複数箇所の堤防決壊および犠牲者発生の要因を明らかにすることを目的とした。そのために、浸水域・浸水深の分布と氾濫原の微地形、堤外地の植生・構造物、溺死者の社会属性、宅地開発の推移、そして居住実態を、GISを使って、2019年の豪雨災害の特徴を俯瞰的に把握した。</p><p></p><p>Ⅱ. 調査結果</p><p>夏井川本川の調査対象地域内で5か所発生した堤防決壊の要因を、越水、旧河道、排水樋門、堤外地の樹林、堰上げ(橋梁・堰)、盛土、その他(炭鉱)の計7つの要素について調査した。なお、最下流の決壊地点のみ、上流の決壊地点から堤内地に流れこみ、氾濫原を流下してきた洪水流が下流端の盛土にて堰き止められ、堤内地側から決壊している。 作成した浸水実績図では、最大4~5m浸水したことが明らかとなった。とくに旧河道、分離丘陵の手前および堤防やJRの盛土の上流部の浸水深が大きくなった(図1)。 調査対象地域の宅地開発は、1960年代以降の土地区画整理事業により急速に進められた。住宅形態は、主に2階建ての建物が多いが、1962年から1982年に開発された土地を中心に平屋が分布している。溺死者は、75歳以上の後期高齢者、平屋に住んでいる高齢者、2階建てに住んでいても身体障害などによって2階に上がることの出来ない高齢者といった特徴があった。また、溺死者が発生した宅地開発年代について調査をすると、1948~1961年が1人、1962~1975年が5人、1992年~が1人であった。なお、1948~1961年の1人の自宅は1961年建設であった(表1)。</p><p></p><p> Ⅲ. 考察</p><p>複数箇所の堤防決壊の要因として、まず夏井川からの越水が挙げられる。また決壊地点によっては、地下水位が浅い旧河道による影響、堤防の物理的な弱点である排水樋門の存在、堤外地の樹林帯による洪水流の流向変化、下流の橋桁などの構造物による堰上げ、連続堤や盛土による氾濫流の堰き止め、そして、河道付近に存在した、かつての炭鉱の坑道による影響などが関係したと考えられる。以上のような複数の要因によって、4kmといった、短い区間の左岸側で、5か所の堤防決壊が発生したと考えられる。溺死者は主に1962~1975年に開発された土地で発生しており、年齢の内訳は、79歳、86歳、91歳、97歳、100歳、100歳(1948~1961年開発)となっており、市営住宅で溺死した79歳を除くと、溺死者の年齢は86歳以上となっている。これは1960~1975年に20~30歳代で土地を購入し入居した人が、それから約50~60年経過し、現在は70~90代となって、今回の水害で被災したと考えられる。</p><p></p><p> Ⅳ. おわりに</p><p>調査対象地域は、かつてより水害常襲地であったが、昭和初期の河川改修により連続堤が整備された。1960年代以降、本来は水田として利用されていた後背湿地が宅地化された。そこに移り住んだ新住民が水害常襲地であることを認識しておらず、夏井川本川で複数の決壊箇所がほぼ同時刻に発生したことにより、地区内の浸水深が急速に大きくなり、水平避難ができず、物理的もしくは身体的に垂直避難できない高齢者が犠牲となったと考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729588480
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_272
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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