長野・新潟県境関田山地,関田峠付近の山体重力変形と大規模崩壊の関係

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The relationship between deep-seated gravitational slope deformation and landslide in Sekita-pass region, Sekita Mountains, Central Japan.

抄録

<p>1.はじめに山地の主要な解体プロセスである大規模崩壊の前兆現象として,山体重力変形(Deep-seated gravitational slope deformation: DGSD)が知られている(小嶋 2018など).しかし,DGSDが発生してからどれくらいの時間が経過すると崩壊に至るのか,という両者の時間関係は解明されていない.そこで,本研究では長野・新潟県境関田山地の関田峠付近に注目した.東西方向の稜線部にはDGSD地形が認められ(八木・井口 2017),その西側には過去に大規模崩壊が発生した証拠となる滑落崖と,崩壊堆積物の堆積面が存在する.本研究ではこの崩壊堆積面上の湿原に着目し,その形成年代から大規模崩壊の発生年代を推定した.加えて,関田峠のDGSDの形成・発達史(渡辺・石村 2023,地理学会)との比較から,両者の関係解明を試みた. 2.地域概要関田山地は新第三系および第四系の堆積岩によって形成された標高1100 m程度の山地である.周辺には長野盆地西縁断層帯や高田平野東縁断層,十日町断層帯が存在する.関田山地には広くDGSD地形が認められ,特に関田峠周辺には顕著なDGSD地形が存在する(八木・井口 2017).この西側北麓には大規模崩壊(光ヶ原崩壊;柳沢ほか 2001)の滑落崖が認められ,さらにこれを山向き崖が変位させている(例えば,中田・今泉 2002).光ヶ原崩壊堆積面上には,二次的に生じた地形が認められないことから大規模崩壊発生時に形成されたと考えられる3つの湿原が存在し,本研究では東から光ヶ原東湿原,光ヶ原中湿原,光ヶ原西湿原とする. 3.手法長野県内は航空レーザー測量によるDEM,新潟県内は空中写真を用いて,地形判読を実施した.その後,ハンドオーガーおよび可搬型パーカッションコアリングシステム(PPCS,金田ほか 2018)を用いて掘削をおこなった.得られたコアは記載し,テフラに含まれる鉱物を確認した. 4.結果・考察光ヶ原東湿原からはHGE-P1コアを採取した.HGE-P1はPPCSにより得た掘削長3 mのコアである.深度0–40 cmは泥炭層,深度40–170 cmは青灰色のシルト層,深度170 cm以深は褐色で砂および礫混じりのシルト層であった.特に,コア最深部は中礫サイズの礫が多く含まれ,これ以上の掘削は不可能であった.泥炭層中には深度5.5–6 cm,8–9 cm,20.5–21.5 cmで3枚のテフラ層が認められた.これらは褐色角閃石を含むものが多く,妙高火山群起源のテフラであることが推定される.光ヶ原中湿原からはHGM-P1コアを採取した.HGM-P1は3 mまでPPCSで掘削し,そこからハンドオーガーを用いて3.74 mまで掘削した,全長3.74 mのコアである.表層から深度105 cmまでは泥炭及び泥炭質シルトの有機質な堆積物によって構成される.深度102–169 cmは青灰色のシルト層であり,それ以深は褐色の砂質シルト層へ顕著に層相が変化することから,深度169 cmで堆積環境が水域へと急激に変化したことが考えらえる.深度362–374 cmは欠損である.深度374 cmで礫に当たり,掘削は終了した.また深度263–272 cmには結晶質なテフラ層が認められ,普通角閃石および直方輝石に富む.両コアの下部に認められる褐色の砂礫混じりシルト層は,山地斜面で見られる礫を含むローム層であると解釈される.上位に水域の堆積物と考えられるシルト層が急激な環境変化を伴って堆積することから,このローム層は大規模崩壊に伴ってブロック状に流下したものであると考えられる.したがって青灰色シルト層の下限が大規模崩壊の発生年代を示すと判断される.本地域の湿原で普遍的に認められるATが検出されないことから,両湿原は30 ka以降に形成されたことが予想される.この年代は関田峠のDGSDで南東側の崖が成長した時期(30–16 ka: 渡辺・石村 2023,地理学会)と調和的であり,光ヶ原崩壊の前駆的に関田峠付近の山体が北麓へむかって変形したことが想定される.発表では,これらの情報に加えテフラ分析を追加し,それらの対比による年代情報をもとに,大規模崩壊の形成年代や関田峠のDGSDとの関係について議論する.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729594880
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_286
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ