1976年における鬼怒川源流域に成立する針広混交林の林分構造

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タイトル別名
  • Stand structure of the mixed forest in a Kinugawa headwater area in 1976

抄録

<p> はじめに 近年,北海道の汎針広混交林において,気候変動を要因とする林内構造の変化が報告されており,飯島ほか(2020)や小川ほか(2021)などによって,林内の針葉樹が減少し,広葉樹が増加するという傾向が示されている。このような林内構造の時間的変化に関する報告は本州の原生針広混交林では少なく,北海道と同様の現象が確認できるかは不明である。本州に成立する針広混交林の変化を捉え,日本国内の森林に対する温暖化の影響をより広い範囲で可視化することは,気候変動下での森林動態を理解する上で重要である。そこで本研究では,本州に成立する針広混交林の林内構造を把握したうえで,温度環境の変化に伴って生じてきたと考えられる植生の動態を明らかにすることを目的とする。本発表では,栃木県日光市の手白山北西斜面を対象として実施した,空中写真による林相判読の結果を報告する。 研究対象地域と手法 気候変動下における本州針広混交林の動態を明らかにするために,小川ほか(2006)において,植生調査が行われ,北海道の汎針広混交林と対応する林分が成立しているとされる栃木県日光市手白山の北西斜面において,林相判読をおこなった。判読には現在得られる最も古い1976年10月のカラー空中写真を用いた。さらに,手白山北西斜面を斜面方位ごとに区分し,北西斜面の95%以上を占めるN向き斜面(45°-315°)とW向き斜面(225°-315°)について考察をおこなった。 結果と考察 北西斜面全体における標高毎の常緑針葉樹比率を図1に示す。標高1350m-1400m帯は針葉樹と広葉樹の割合がそれぞれ5割となり,他すべての標高では,針葉樹の割合が5割を上回った。針葉樹の比率は標高が上がるにつれてほぼ階段状に高まり,標高1650m-1700m帯では81.5%に,頂上付近の標高1800m-1850m帯では92.8%となった。斜面下部である標高1350m-1400m帯や標高1400m-1450m帯は,判読の誤差を考慮しても,針広混交林に近い林分であると考えられる。斜面中部である標高1650m付近から針葉樹林的な様相が強くなることから,斜面中部は針葉樹林であり,その中間は針葉樹が優勢な林分となっていたと考えられる。斜面方位別に生育している樹木をみると,N向き斜面では,全体を通して常緑針葉樹の比率が高く,すべての標高で50%を上回っ た。一方でW向き斜面は,標高1350m-1400m帯以外で針葉樹が5割を上回っていた。N向き斜面とW向き斜面で標高毎に針葉樹の比率を比較すると,下部である標高1350m-1400m帯で15.7%,標高1400m-1450m帯で7.4%,その他の標高帯で5%前後の差があり,標高1650-1700帯,標高1700m-1750m帯を除いて,N向き斜面で針葉樹の比率が高かった。また,標高の低い箇所ほど斜面方位による差異は大きくなっていた。比率の差については,W向き斜面はN向き斜面と比較して日射条件に優れることで,広葉樹が優先して侵入している可能性が考えられる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729604480
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_305
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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