木材の地域循環型流通システムと協同空間の創出

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タイトル別名
  • Local circulation system of timber and co-productive spaces in Yoshino
  • a case of the lumber company
  • 奈良県吉野地域の製材業者を事例に

抄録

<p>日本の木材流通は地域差が大きい。原木(丸太)は形状及び重量の点から長距離移動にコストがかかるため,地元の原木市場に集約されることが多い。2010年に公共建築物等木材利用促進法が施行され,国が整備する低層の公共建築物については原則木造化する方針が定められた。2021年には「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(「改正木材利用促進法」)が施行された。同法には木材建築を増やすことで市中に「第2の森林」を作り,二酸化炭素の減少に繋げるという目的があり,公共建築だけでなく大学,病院,民間建築物についても木材の利用が推奨されている。特に公共建築物については,設計段階で当該施設が設置される地域の木材が指定されることが多く,木材の地産地消が図られている。本研究は,このような木材の地域循環型流通システムにおいて,製材業者が果たしている役割と機能を明らかにすることを研究目的とする。奈良県の吉野地域は木材のブランド化に成功しており,吉野杉,吉野檜は高級材として知られている。吉野地域では一般的に,山から切り出された丸太が原木市場に集まり,そこに製材業者が買い付けに来る。製材業者は丸太を板や柱といった形に製材し,これらが材木問屋や工務店などに販売されていく。本研究では吉野地域の製材業者である吉田製材株式会社(以下,吉田製材)を事例として取り上げる。</p><p> 本研究では企業のステークホルダーとの関係性の分析装置として制度派経済学におけるエージェンシー理論を援用する。エージェンシー理論では,依頼人から対価を得て業務を代理する者を「エージェント」と定義する。依頼人とエージェント間には限定合理性,情報の非対称性,相互の利己的利益の追求といった諸前提が置かれる。本研究では製材業者をエージェントとして捉える。現在,公共建築物の建築資材として各地の地域材の使用が奨励されている。吉田製材では各地の公共建築物を建築する事業者に代わって当該の地域材を各地の原木市場から仕入れ,木材の地域循環型流通システムを実現している。</p><p> 吉田製材では,障がいや難病のある方が軽作業などの就労訓練を行う,B型就労に対する支援を行っている。吉田製材が支援する施設では,胡蝶蘭などの鉢植えの後ろに立てる棒などを製作しているが,そこで使用する材料は,吉田製材が自社工場の中で出てくるものを無償提供したものである。また,当該施設で使用している機械も吉田製材が,自社で使用しなくなった機械を無償提供したものである。更にその施設が生産した商品を全量買取りして販売している。以上により吉田製材は,吉野地域における地域循環型流通システムと協同空間の創出を実現していると言えよう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729606272
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_31
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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