栃木県今市扇状地の河成段丘区分とその編年

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  • Chronology of fluvial terraces in the Imaichi Alluvial Fan, TOCHIGI Pref.

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 栃木県西部に位置する今市扇状地は,大谷川が形成した扇状地で,大部分が段丘化している.段丘面の区分は研究により異なり,3面に区分した研究 (宮岡, 1995)と,2面に区分した研究(山元, 2010)がある.また,扇状地の南側には流れ山がみられ,140 ka頃の女峰山の山体崩壊(行川岩屑なだれ)起源とされる(橘,2004).岩屑なだれ堆積物と最高位段丘の構成礫層の層序関係は,前者が整合で後者を覆うとする説(鈴木, 1993; 阿久津,1957)と逆順の説(山元, 2010)があり,詳細は不明である.</p><p> 今市扇状地の段丘形成年代と形成過程の解明は,MIS6以降の東日本における河川地形発達に与えた気候変化の影響や,山体崩壊が流域に与える影響を評価するうえで重要な課題である.</p><p></p><p>2.研究手法</p><p>国土地理院公開の5mDEMを用いた地形判読,火山灰試料の主成分化学組成分析,砂礫層の円磨度判定・礫種分析を行った.</p><p></p><p>3.結果・考察</p><p>(1)地形判読結果</p><p> 高位から順に,鹿沼面,大室面,宝木面の3面に区分した.両面の比高は1~2 mとわずかだが,ローム層の層厚と開析谷の発達の程度に差が認められた.</p><p>(2)火山灰試料の分析結果と段丘化年代</p><p> 鹿沼面構成礫層(褐色亜円礫層)の直上に認められた層厚8 cmの軽石層(Loc.2)は,SEM-EDSによる磁鉄鉱の分析結果から,赤城折口原テフラ(Ag-OrP:150 ka(山元, 2016))に対比され,段丘化年代は150 ka頃と推定された.</p><p> 宝木面構成礫層との間に層厚1.1 mのローム層を挟んで認められた層厚35 cmの軽石層(Loc.1)は,火山ガラスの分析結果から赤城鹿沼テフラ(Ag-KP:45 ka(青木ほか, 2008))に対比された.Ag-KP以前のローム層の堆積速度を以後~現在(7.8 cm/kyr)と同等と仮定すると,段丘化年代は60 ka頃と推定された.</p><p> なお大室面には,山元(2010)が詳細な火山灰編年を行った露頭があり,120~110 ka頃に段丘化したと考えられる.</p><p> 同時期の段丘は周辺地域でも報告(例えば田力ほか, 2011;渡辺, 1991;幡谷, 2006)されており,一連の気候変化に応答して形成された気候段丘である可能性が示唆される.</p><p>(3)砂礫層の円磨度の判定・礫種分析の結果</p><p> Loc.2では,分析した軽石層を含む層厚1 mのローム層の上位を黒色砂礫層が覆う様子を観察できた.黒色砂礫層は,Loc.2の露頭が不安定だったため,2 km離れたLoc. 3で採取したが,層相と地形的連続性から確実に同一層に対比できる.黒色砂礫層の礫は,29個中24個が角礫・亜角礫であり,礫種は全て玄武岩ないし安山岩だった.この特徴は,亜円礫・円礫を主体として流紋岩礫を多く含む鹿沼面構成礫層(Loc.4)とは異なり,女峰山で発生した行川岩屑なだれ堆積物に対比される.ただし,Loc.2, 3では斜交層理が発達した砂層を挟むことから,岩屑なだれの二次堆積物だと考えられる.</p><p> 以上から,鹿沼面構成礫層と岩屑なだれ堆積物は層相から区別でき,Loc.2で層厚1 mのローム層が両者の間に挟まることから,鹿沼面構成礫層の堆積後,行川岩屑なだれが堆積するまでに1万年程度の時間があったと考えられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729622784
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_50
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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