救援活動拠点・避難所の配置と地理学の貢献

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Geography’s Contribution to Deployment of Relief Operation Bases and Evacuation Centers
  • Introduction
  • 主旨説明

抄録

<p>1 シンポジウムの主題と企画の背景大規模災害が発生した時に,いかにして迅速で効果的な救援活動を展開するかは喫緊の課題である。こうした立場から本シンポジウムでは南海トラフ地震を念頭に,被害が想定される地域において,迅速で効果的な活動を実施するための救援活動拠点や避難所の配置に関して人文地理学,自然地理学およびGISの観点から議論する。ハザードマップをはじめ,災害発生前の防災対策や発災後の復旧活動支援に関しては少なからぬ地理学の貢献が蓄積されている。その一方,発災直後からの救援活動に関しても地理学の貢献の余地は少なくないのではないかというのが,報告者らの立場である。こうした問題意識からオーガナイザーである荒木はこれまで被災地への救援物資輸送に着目した取り組みを行ってきた(荒木他,2017)。その過程で,救援活動拠点や避難所の配置に関する課題と地理学からの貢献の余地にも着目した(荒木,2022)。本シンポジウムはそうした流れから企画されたものである。また,時あたかも内閣府では「避難生活の環境変化に対応した支援の実施に関する検討会」が開催され,避難所支援から避難者の支援へとの考え方の転換が進められている。従来的な避難所と避難者という枠組みではなく,避難所外の避難者という視点が議論されている。こうした点においても地理学の貢献の余地はあると考える。2 救援活動拠点配置,避難所配置 本シンポジウムが対象とするのは救援活動拠点と避難所である。ここでいう救援活動拠点とはオーガナイザーらのこれまでの研究を踏まえて,救援物資や人員を被災者世帯や避難所へと中継する拠点である。内閣府の広域防災拠点,東京都の大規模救出救助活動拠点など類似の概念とは同義ではなく,寧ろ包括的な意味合いで用いている。また,避難所についても自治体等の指定する避難所や避難場所に限定するものではなく,それらの機能を果たすものを避難所と位置付けている。例えば,荒木はそもそも避難所ではないJRの駅舎をはじめとする鉄道施設に,災害時に救援活動拠点や避難所の役割を担わせることが可能かという観点からの研究を進めている。従来の狭義の避難所の配置では災害時に十分な支援活動を実施できないのではないかという問題意識によっているからである(荒木,2022)。こうした点からの配置論を提起したい。3 地理学(人文・自然・GIS)からの貢献 本シンポジウムで提起したいもう一つは,地理学の個別の分野からのアプローチではなく,分野横断的なアプローチである。無論,自然地理学からの貢献もあろうし,人文地理学からの貢献あるいは経済地理学からの貢献,GISからの貢献なども有効であろう。大いに取り組むべきであるが,それらを束ねるアプローチはより効果的ではないかと考えた。 ここでは,自然地理学を下敷きにした紀伊半島南部において航空写真を利用した救援活動拠点や避難所の配置の検討(楮原・桐村),GISを下敷きにした南海トラフ被災想定地域での避難経路と避難所の配置の検討(田中)や新宮市を事例とした避難行動支援と防災計画の策定,訓練の実施などの検討(熊谷)をラインアップするともに,栄養学の立場からの効果的な炊き出しや食事提供に関する検討(保井)も議論に加えた。また,最後に政策動向を踏まえた提言(菅野)を配置し,コメンテータおよびフロアを交えて有意な議論が持てれば幸いである。主旨説明を脱稿後,能登半島地震の報に接した。避難所への救援物資輸送が困難な状況にあることや孤立した集落・避難所,また,被災者に占める高齢者の多さなどに関するニュースが連日伝えられている。こうした半島部の状況は,南海トラフ地震の際の紀伊半島や室戸岬,足摺岬周辺においても同様であることが想定される。本シンポジウムがそうした状況を改善する一助になれば幸いである。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729626112
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_61
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ