東京大都市圏の墳墓供給における民間部門の役割

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タイトル別名
  • The Role of the Private Sector in Supplying Graves in the Tokyo Metropolitan Area

抄録

<p>Ⅰ 問題の所在</p><p>日本では,戦後の人口増加と人口移動の結果として,現在大都市圏の死亡数増加が著しい.死亡数の増加は今後数十年間続き,墓の必要が高まると考えられる.そのため,墓など葬送のための手段と空間のニーズを検討し,ニーズに安定的・持続的に対応することは重要な社会的課題である.これまでの墳墓ニーズの増大に対しては,特に戦後,民間部門による墓地供給が大きな役割を果たしてきたとされる.しかし,営利企業が経営に参画したものの,経営に失敗し破綻する事例もあるなど課題もある.</p><p>先行研究では,民間部門の墳墓供給により社会的・地域的な不公正を拡大することが指摘されている(Rugg 2022など).一方で,日本においては,公共部門による墓地供給の考え方と供給の不足(辻井 2023)や墓地・墓石供給者としての石材業の役割の変化などは明らかにされてきたものの,民間部門による霊園開発の実態や役割については明らかではない.墳墓供給を公共サービスとして捉え,民間部門の位置づけを検討する必要がある.</p><p></p><p>Ⅱ 研究の目的と方法</p><p>本研究では,東京大都市圏での墳墓供給のうち,特に民間部門による墓地供給に着目した.墳墓供給全体における民間部門の位置づけと実態,民間部門の墳墓供給をめぐる主体間関係を明らかにし,墓地供給の課題がどのような状況をもたらしたのか,公共サービス供給における公共部門・民間部門の地位と役割をめぐる議論を踏まえ考察する.研究方法については,第一に墓地の行政上の位置づけと公共部門による供給状況・政策的対応について文献調査を行った.第二に,民間部門の供給状況を雑誌資料等の分析から示した.第三に,民間部門の墳墓供給にかかわる主体にヒアリング調査を実施した.</p><p></p><p>Ⅲ 結果と考察</p><p>半永続的に空間を占有する墓地の特性から非営利性や永続性の観点による墓地設置主体の規制を国が課す一方,公共部門による墓地供給は特に郊外地域を中心として不十分であり,東京大都市圏全体のニーズの推計から供給不足が明らかになった.墓地のニーズの把握や民間部門による供給に対する考え方は自治体間で差がみられ,供給状況も大きく異なる.</p><p>公共部門と異なり,民間部門の墓地供給は,営利目的での立地であるため,ニーズ・供給ともに行政域と関係のない商圏でマッチングが行われてきた.また,他の公共サービスと同様に,民間部門の供給ではニーズとの地域的なミスマッチと立地の偏りが生じているという問題が明らかになった.民間部門の供給では,石材店などの営利法人の関与が不可欠であり,宗教法人は主導的ではない.営利法人による墓地の設置では,社会経済的状況の変化を反映し,営利法人間で協力して墓地開発を企画するなど経営リスクの分散が進んだ.これにより結果的に安定的な経営と供給が多くの墓地において実現している.</p><p>近年の分権化の進行と自治体による規制の強化により,特に郊外自治体を中心に,墓地の新設自体難しい状況が生じている.特に規制が厳しい地域では,供給が一部事業者に限られ,地域住民が一定の地域内で手頃なサービスを受けることが難しく,社会的,地域的に不公正な状況が生じることも明らかになった.今後の死亡数増加に伴う墳墓のニーズに対しては,公共部門は公共サービスへの支出の減少に伴う公営墓地の整備の困難,民間部門は規制への対応の困難がある.このため,新たな墓地設置・供給は極めて難しく,結果的に住民がニーズに応じた墓地サービスを受けることはますます困難になるといえる.</p><p>墳墓供給は,行政域と需給の不整合,需給の地域差,地方分権化による供給の地域差の拡大による社会的・地域的不公正の発生という点で,公共サービス供給の議論と符合する.しかし,施設の永続性,使用者の永続性,生前購入によるニーズの先取りの可能性,の3点で他の公共サービスと性質が大きく異なるため,この相違を踏まえて墓地供給を検討しなおす必要がある.</p><p></p><p>参考文献</p><p>辻井敦大 2023.『墓の建立と継承―「家」の解体と祭祀の永続性をめぐる社会学』.晃洋書房.</p><p>Rugg, J. 2022.Social justice and cemetery systems.Death Studies 46: 861-874.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729628416
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_66
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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