災害対応委員会創設と防災地理教育推進への想い

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  • Founding Disaster researcher group and promoting geographical education for disaster control in AJG

抄録

<p>1.阪神淡路大震災と災害対応委員会創設への想い災害対応委員会創設は地理学の発展を念じた企画専門委員各位との取組みで、その想いを述べる。発端は1995年の阪神淡路大震災時に立命館大学震災プロジェクト復興総括委員長での私の経験にある。被災地で多くの大学や学会が震災研究をした。平時から地域住民・行政・マスコミ等と交流する常設防災研究組織をもつ機関は、災害時に迅速な支援や研究成果発信でき、注目・評価を高め、人も資金も集めた。他方、発信力のない大学・学会評価は相対的に低下した。常設災害研究組織のない地理学研究者は、地震の原因究明や震災復旧・復興の研究成果を必ずしも地理学の肩書きでなく、他の学会・研究分野を名乗った。その結果、地理学者の優れた研究や社会的貢献にも係わらず、地理学界の社会的評価にならず、大学の地理学教員定数や予算等の研究環境悪化要因にもなった。この経験から日本地理学会に、研究者誰でもが参加・活動可能な災害研究プラットホーム創設の想いを持った。 2.グランドビジョン策定と災害対応委員会の設置阪神淡路大震災後の学会評議員会などでの災害対応組織創設提言の実現への転機は、常任委員に選出された2000年、企画専門委員長就任に始まる。企画専門委員会に定型業務はない。専門の国土計画・まちづくりの視点で俯瞰した日本地理学会には、戦略的ビジョンがない。この状況では学会が時代の大転換・社会要請に応えられないと認識し、学会の将来像とその実現方策の検討を重ねた。その成果が2004年2月『地理学評論』公表の『日本地理学会グランドビジョン』で、災害対応委員会設置を柱の一つにした。他方、法人化準備の公益事業推進委員会でも災害対応の必要性を提議し、2000年10月常任委員会から企画専門委員会に創設検討要請された。そこで宇根寛委員を中心に原案を作成し、常任委員会との検討・審議を経て、災害対応委員会(遠藤邦彦委員長)を2001年3月企画専門委員会傘下に前倒し設置できた。 3.第三学会誌・資格制度創設と災害研究 グランドビジョンにおける第三学会誌・資格制度創設も災害対応委員会設置への想いに関連する。日本地理学会は査読審査済学術論文からなる「阪神淡路大震災特集号」を震災一年半後、『地理学評論』1996年7月号で発刊した。しかし、大災害では迅速な学術情報が希求されたため、被災地域,行政、マスコミへの波及効果は低かった。他方で、日本都市計画学会は『阪神淡路大震災緊急特集号』を1月半後の1995年3月に発行、書店で頒布して社会的影響力を高めた。これは会員の緊急調査結果や知見を発表したレジュメなどを集めて発行したもので、縦書き・横書き・一段組・2段組など不統一であるが、多くの関係者が争って購入・参考にしていた。そこで、『地理学評論』で難しい緊急事態への地理的知見の迅速な伝達や政策提言などを発信する第三学会誌を検討し、結果として『E-journal GEO』となる。また、地理学的素養に基づく資格が、災害調査その他社会活動への貢献を期待し、地域調査士制度創設に尽力した.   4.人的基盤づくりとしての防災地理教育への取組レジリエントな国土形成・国土強靱化には、時空間的に自然環境と人間活動の関係を理解する能力・人間力が求められ、地理教育の役割が大きい。私は1990年頃から高校地理必修化に取組んだが、組織的・広範な活動を目指して学会に提議し、グランドビジョンに入れ、タスクフォース員としてロビー活動もした。また、2021年度までの高校地理「学習指導要領」作成協力者として関係者と共に地理Aに「防災」と地理Bに「国土の在り方」を記載できた。その後、学術会議・学界で広範に地理教育関係者の多くが必修化に取組まれ、2022年度からの学習指導要領『地理総合』で「自然環境と防災」を必修で、『地理探究』で「現代日本に求められる国土像」を学ぶ体制に充実して頂けた。 5.総合的・俯瞰的視点を持つ災害対応委員会への期待災害対応委員会は大会毎にシンポジウムを重ね、防災の在り方を情報発信してきた。また、委員の尽力で東日本大震災・能登半島地震など大災害時に「日本地理学会」の知見が様々な報道機関から報道されるようになり、感慨深い。今後への期待は以下である。①有事に委員会メンバー以外も参加できるプラットホーム機能強化、②災害現象・原因究明や災害対策から復旧復興システム構築まで文理・総合的・俯瞰的・時空間的研究体制強化、③報道機関向け広報システム構築、④迅速な「災害緊急報告」の発行、⑤関係機関と組織的連携・ネットワーク強化、⑥『地理総合』教育現場支援強化、⑦災害対応委員会体制強化:a.大学・分野横断共同研究 b.災害研究での総括的地位確立。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729630848
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_73
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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