ネパール西部におけるコミュニティ参加型生活林再生事業のインパクト評価

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  • The Impact Evaluation of Community-Participatory Reforestation Project in Western Nepal

抄録

<p>I. はじめに</p><p> 本報告は「ヒマラヤ保全協会」(Institute for Himalayan Conservation: IHC)が2010年から2015年にかけて実施した、JICA草の根技術協力事業(JPP)(平成22年度第1回採択案件1003654)「生活林づくりを通した山村復興支援プロジェクト」の植林事業による、地域植生へのインパクト評価を事例とする。当プロジェクトでは、ネパール西部カリガンダギ河流域の6ヵ村63地点において、約23万本の植林によって、およそ140万㎡を緑化された(相馬2021)。本研究ではリモートセンシングデータと、統計的因果推論の代表的な手法のひとつである傾向スコアマッチングの手法を組み合わせることで、当該プロジェクトが植生回復に及ぼす経年的なインパクトを定量的に評価した。</p><p></p><p>II. データ</p><p> 本研究の分析対象地域は、ダウラギリ県ミャグディ郡およびパルバット郡の6村落(サリジャ村、ドバ村、ベガコーラ村、ダグナム村、ジーン村、バランジャ村)である。各村落には計68カ所のプロジェクト事業区が存在しており、2015年5~10月にかけてGPS機器を用いた実測によって各事業区の境界データを取得した。</p><p> 植生を評価するデータとして、Sentinel-2によって取得された2022年10月から2023年5月にかけての乾季のNDVIの期間平均値(以下、2022/23年乾季NDVI)を用いる。後述する傾向スコアの算出に用いる共変量として、ALOS(だいち)World 3D-30mのDEMデータ、国際総合山岳開発センター(ICIMOD: Lalitpur, Nepal)が提供する2009年のネパールの土地被覆分類データ、OpenStreetMapから取得された道路データを用いる。</p><p></p><p>III. 分析方法</p><p> 傾向スコアマッチングは、観測データから施策を受ける確率(= 傾向スコア)を予測し、それに基づき処置群と対照群のペアをマッチングする手法である。マッチングされた両群を比較することで、施策による「処置群における平均処置効果」(Average Treatment effect on Treated: ATT)が推定される。</p><p> 本研究では、Sentinel-2の10m解像度画像のピクセルを分析の最小単位とする。まず傾向スコアを算出するために、プロジェクトの事業区内のピクセルであること示すダミー変数(処置ダミー)を被説明変数とし、各ピクセルの標高、傾斜度、傾斜方位、道路までの距離、2009年時点の土地被覆分類を説明変数とするロジスティック回帰モデルを推定する。次に算出した傾向スコアに基づきマッチングされたデータセットを用いて、処置群と対照群における2022/23年乾季NDVIの平均値の差を求めることで、プロジェクトによる介入効果を推定する。</p><p></p><p>IV. 分析結果</p><p> マッチングされたデータを用いてt検定を行った結果、処置群と対照群の2022/23年乾季NDVIの平均値の差(処置群における平均処置効果)は0.027と推定された(表1)。統計的にも1パーセント水準で有意であり、プロジェクトによる正の介入効果が認められた。</p><p> なおマッチングされたデータについて、処置群と対照群の各共変量の標準化平均差の絶対値は0.1を下回っており、バランスのとれたマッチングが行われたことが確認された。</p><p></p><p>V. まとめ</p><p> 傾向スコアマッチングを用いた分析により、ネパール西部カリガンダギ河流域の6ヵ村で行われた生活林再生事業が、約10年経過した後も植生回復に対して正のインパクトを及ぼしたことが確認された。本研究により、相馬(2021)で報告されたコミュニティ参加型の植林事業と林地管理の有効性が定量的に確認された。</p><p></p><p>参考文献</p><p>相馬拓也 (2021): ネパール西部カリガンダキ渓谷遠隔農村部における生活林再生とアグロフォレストリーの国際協力. 早稲田大学高等研究所紀要, 13: 77-88</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018384729638144
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_91
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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