シンポジウムのねらい

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抄録

<p> 胎児をとりまく羊水は,胎児の子宮内生活に必要不可欠のものであり,古くから注目を集め,次々と興味ある知見が得られてきた。胎児・新生児の臨床を中心とした観点から羊水に関する主な研究業績や知見を眺めた場合,たとえば以下の如きものがあげられよう。</p><p> 第1は最も古くから知られているもので,羊水過多に消化管奇形が高頻度に伴うことである。最近では羊水過多の例では超音波断層検査などで奇形の有無が出生前に診断され,生後の対応が変化しつつある。</p><p> 第2は羊水の胎児肺内吸引に関する知見である。生理的な状態では胎児の末梢気道には羊水は存在せず,胎児肺自体が産生分泌する肺(胞)液が胎児肺胞を満たしており,これが羊水の一構成成分となっていることが明らかにされている。そして羊水が末梢気道まで吸引されるのは胎児が強い低酸素症に陥り,あえぎ呼吸(gasping respiration)を起こす場合のみであり,これが生後の胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome;MAS)の病因であることが示された。この知見は分娩室における仮死児の処置や対応の改善に大きく役立ち,MASの病状の軽減もしくは予防に貢献している。</p><p> 第3は羊水を胎児のwell-beingの判定の試料として用いるようになったことである。染色体異常や先天性代謝異常症の出生前診断はもちろんのこと,胎児の成熟度判定が羊水分析により可能となっている。とくに肺サーファクタントを指標とする肺胎齢(lung age)の推定は臓器胎齢(organ age)判定の代表例であり,生存限界の判定に最重要の指標として今日もっとも広く行われている。</p><p> 第4は古くて新しい知見である肺の成長と羊水量の問題である。妊娠中期の破水による羊水過少に伴う肺低形成の発症は,肺の成長に適量の羊水が必要であることを改めて示している。</p><p> 以上の例はいずれも臨床の面から興味ある知見のみであり,きわめて断片的なものである。羊水が胎児をとりまくもっとも身近に存在するものであるにもかかわらず,我々が羊水に関する知識はきわめて断片的なものにすぎない。また我々が羊水について系統的な知識を学ぶ機会もきわめて少ない。</p><p> そこで本シンポジウムにおいては,羊水に関する基礎的な知識を整理し,up to dateの全体的な知見を学び,さらに現在臨床上問題となっている点を皆で討議すべく企画された。整理された基礎知識と最新の知見をもとに,今日のトピックスについてホットなディスカッションの交されることを期待したい。</p><p> なお,シンポジストの一人,内藤達男氏が約3週間前に急逝された。本日は共同研究者の山南貞夫氏に内藤氏の遺稿となるデータを急拠おまとめいただき,報告していただくこととした。本シンポジウムでのホットなディスカッションを故人に捧げ,冥福を祈ることとしたい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390018583807252736
  • DOI
    10.34456/jspnmsympo.4.0_8
  • ISSN
    2759033X
    13420526
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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