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説明
言語モデルとオープンソースの組み合わせが爆速でコンピューターの進化を生み,音楽分野も凄いスピードで進化している。プロの作曲家が試行錯誤しながら苦労して作った候補作2 曲から選ぶより,AI が1 時間で作った1,000曲の中から最高の素材を探す方が,結果的に良質の作品が出来る。AI がランダムに作曲するため,曲が出来るペースより,人間が聴く方が時間を要するため,永遠に追い付けない。出来上がった曲が不満であっても,即座に代替曲を提示することが可能である。「夏の出会いが出て来る音楽をアイドルソング調で作って」とプロンプトに入力すると,きちんと感情を揺さぶる音楽を創る。しかも,それが数秒で且つ無料で出来てしまう。言語モデルは年に1回くらいアップデートされるため,2035 年には人類の作成能力を超える。AI の動画生成は作曲を上回るペースで進化を遂げている。動画のBGM は見過ごされがちであるが,需要が多い分野である。TikTok が大ヒットした理由は,BGM が予め用意されているからである。絵画では,人工知能(AI)の生成画像をベースにした作品が審査員に気づかれないまま有名な賞を獲ったが,音楽のグラミー賞でもAI 作成曲は対象外とすることが発表された。特別ルールを設けなければ,人間の製作を超えてしまう証左である。人間が作った音楽とAI 生成曲で明確な区別が付くのであれば,このようなルールは必要としない。音楽を創る時間とコストは猛烈に下がり,質はどんどん向上している。2023 年末時点では,「Suno」の評判が良い。生成型AI を用いた実習のポイントは「創作の楽しさ」が学生の学習に対するモチベーションにもたらす効果である。音楽を作って発表すること自体がまず楽しい。そして全員集合型で「苦しみながら頑張った」よりも,楽しみつつ個人としてオリジナルの創作物が出来る実感を持ち易い。生成型AI をきっかけに多くの学生に創作の楽しみを知ってもらい,「鑑賞」するだけに過ぎなかった受動接触から,「製作(参加)」する能動接触に変えられる。結果,メディアやエンターテインメントを学習するモチベーションが高まれば良い。個人が苦手とした部分をAI がカバーしてくれるため,音楽の知識や楽器スキルがなくても,作曲家・作詞家,ミュージシャンになれるようになった。生成AI の用途の多くは画像や動画など視覚的なものである。様々な生成AI を実習してもらう中で,聴覚を刺激する「音楽生成AI」は特に学生たちが興味を持って取り組んで好評であった。ボカロP やV チューバー人気に伴い,自らが作詞・作曲・演奏・歌唱しなくても音楽の情報発信をするハードルは極端に低くなっている。音楽生成AI は,合成音声を使ってゼロから音楽を作成できる。音声空間,音声の生成,変換,編集,ダビング,翻訳などの機能は,私たちが作る多くのものの基礎となるメディア要素になる。生成AI は音楽教育を他人が作ったモノについて薀蓄を垂れるだけの評論家思想からクリエイティブ思想に変えてくれた。「創る」ことは楽しい。そして最先端の「知」に触れる機会でもある。
収録刊行物
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- 江戸川大学紀要
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江戸川大学紀要 34 23-40, 2024-03-15
江戸川大学
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390018816298347776
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- NII書誌ID
- AA12560733
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- departmental bulletin paper
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB