梵文法華経写本に出現する<i>evam eva</i>

  • 西 康友
    Associate Director, Chuo Academic Research Institute of Rissho Kosei-kai /Researcher, International Institute for Nichiren Buddhism of Minobusan University, Doctor of Buddhist Studies

書誌事項

タイトル別名
  • <i>Evam Eva</i> in the <i>Saddharmapuṇḍarīka</i>
  • Evam Eva in the Saddharmapundarika

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説明

<p> 梵文法華経(SP: Saddharmapuṇḍarīka)写本初の校訂本『ケルン・南條本』の編纂者の一人であるケルン(Johan Hendrik Caspar Kern)と,仏教混淆梵語の命名者であるエジャートン(Franklin Edgerton)はSP写本間において,本来同じ語があるはずの箇所に,異なる読みの語(異読)が存在していることを見出した.この異読の存在から,ケルンは初期のSPが中期インド・アーリヤ語的言語状況下で編纂されたことを示唆し,さらにリューダース(Heinrich Lüders)やエジャートンはSPが伝承・書写される過程で梵語化した(梵語化仮説)と提唱した.</p><p> しかし,この仮説にはブラフ(John Brough)など写本研究者たちの反論も少なくない.この仮説の是非を検証するため,発表者はSP写本に数多く存在する異読に着目して,これを精査してきた.現時点では未だ梵語化仮説を覆す例証は見つからず,この仮説を支持する多くの結果を得ている.</p><p> 本発表は上記の梵語化仮説の検証をさらに進めたものである.evam eva(「まさにその通りに」,「ちょうどそのように」の意)とその異読em evaに着目し,書写年代に大きな開きのある複数のSP写本においてこの異読を検証した.evam evaが含まれ,韻律の崩れている偈文句については,そのevam evaを異読em evaに置き換えると,韻律に合う偈文句となった.このことから,em evaであった箇所が何らかの理由でevam evaに置き換えられたと推定される.em evaは,古くはアショーカ王碑文にも見られるアルダマガディー語の語句であり,パーリ語や古典梵語には存在しないことから,初期のSPはアルダマガディー語によっても編纂された可能性がある.また,このことはSP写本における梵語化仮説を支持する例証の一つを示すものである.</p>

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参考文献 (5)*注記

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