飼育下のホッキョクグマがペーシングによって消費するエネルギー量の解明

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  • Energy expenditure of captive polar bear exhibiting pacing behavior

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説明

飼育下の動物で特異的に観察される常同行動は,動物が低福祉状態にある時に多く発現することが報告されている。そのため,常同行動に関する多くの研究は,その発現を抑止することや発現頻度を減少させることに着目してきた。しかし,常同行動の発現が動物に与える影響を考慮せず単にこれを抑制する行為は,動物福祉をさらに低下させる可能性があるかもしれない。従って,まずは常同行動の発現による動物への影響を明らかにし,その影響に基づいて常同行動への対応を検討する必要があると考えられる。そこで本研究では,常同行動の一種であるペーシングを対象に,その発現が動物の身体へ与える影響を評価・検討することを目的とし,ペーシングによって消費されるエネルギー量の定量化を試みた。 調査期間は2023年5月から10月とし,毎月9日間,9時5分から16時25分までの間,北海道帯広市のおびひろ動物園において,展示されているメスのホッキョクグマ1 頭の観察を行った。観察によって明らかとなったペーシングによる歩行距離に基づき消費エネルギーの定量化を行った結果,ペーシングによって消費されたエネルギー量は数百kcal /日程度であった。ヒトやイヌの先行研究との比較により,ペーシングの発現が意義のある運動としてホッキョクグマに影響を与えている可能性が示唆された。この結果は,これまで行われてきたペーシングへの対処に一石を投じるものであり,今後様々な視点からペーシングを含めた常同行動への対応を議論することが重要であろう。

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