書誌事項
- タイトル別名
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- Assessment of the application of atherosclerotic disease risk scores in the workplace
- ショクイキ デ ノ ドウミャク コウカセイ シッカン リスクチ(ヒサヤママチ ケンキュウ スコア)ウンヨウ ニ ツイテ ノ ケントウ
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説明
<p>目的:定期健康診断後の事後措置での高リスク者の抽出において単一リスクでの選定のみでは,複数のリスクを持つ対象者を見逃す可能性がある.我々は,動脈硬化性疾患(Atherosclerotic Cardiovascular Disease: ASCVD)の発症リスク予測モデルである久山町研究のスコア(ASCVDリスク値)に着目し,職域におけるASCVDリスク値の運用について検討を行った.方法:2010年度の定期健康診断結果をベースラインとし,脳・心臓疾患既往のない19歳から64歳までの41,815名(男性:34,024名,女性:7,791名),平均年齢(±標準偏差):43.2±5.6歳(男性:43.6±5.4歳,女性:41.8±5.8歳)を対象とした.2011年度から2020年度までの10年間における動脈硬化性疾患発症とベースライン時のASCVDリスク値の関連をCox回帰分析にてハザード比を用いて検討を行った.次にASCVDリスク値の予測モデルの性能評価に受信者動作特性(ROC)分析を使用し,職域における至適カットオフ値と高リスク者の抽出基準を検討した.結果:10年間での動脈硬化性疾患の発症率は2.6%(男性:3.0%,女性:0.8%)であった.ASCVDリスク値ごとの累積発症率(千分率:‰)は,ASCVDリスク値が4.5%から8.0%まで発症率は25‰のまま変動せず,ASCVDリスク値が8.5%を超えると26‰へ上昇していた.発症率とのハザード比による関連では,単変量解析により,男女ともにASCVDリスク値が発症率に有意な関連を示した.男性ではASCVDリスク値が1%上昇するごとに発症率が1.5倍(ハザード比(HR):1.46,95%信頼区間(1.42–1.51),p < .001)上昇し,年齢,健康診断項目,生活習慣,職業関連因子による多変量調整後も有意な関連(HR:1.26(1.21–1.32),p < .001)を認め,10歳ごとの年齢階級別の検討では,30歳以上の若年層から発症との有意な関連を認めた.女性ではASCVDリスク値が1%上昇するごとに発症率が3.2倍(HR:3.19 (2.10–4.85), p < .001)上昇することが確認されたが,年齢や多変量調整では発症との有意な関連を認めなかった.ROC分析ではASCVDリスク値1.62%が最も優れた予測力を示し,感度:58.6%,特異度:71.9%,陽性反応的中率:5.2%であった.ASCVDリスク値の上昇とともに陽性反応的中率は増加傾向を認め,ASCVDリスク値が3.5%を超えるとPPVは10%を超えていた.また,久山町研究では全体の上位20%を高リスクと定義しているが,本調査ではASCVDリスク2.0%以上の対象者が全体の上位18.8%を占めており,2%以上を「高リスク」として捉えることが妥当であると考えられた.考察:男性は,発症とASCVDリスク値に強い関連が認められ,特に30歳台の若年層においても関連が確認された.一方,女性では単変量解析で発症との関連が示されたものの,年齢調整および多変量調整後には有意な関連は認められなかった.これは,加齢に伴うエストロゲンの抗動脈硬化作用の低下が影響している可能性が考えられた.定期健康診断後にASCVDリスク値を把握し,生活習慣の是正や受診勧奨に活用することは有用と考えられ,リスクレベルにしきい値を設定し,優先的に対応することが重要である.本調査ではROC分析に基づき,1.5%以上を「予防的介入の基準」,対象者の上位20%相当である2.0%以上を「高リスク」,陽性反応的中率が10%を超える3.5%以上を「超高リスク」とするリスクの階層化が適切と考えられた.しかし本調査は,企業規模や平均年齢によってリスクレベルが低く見積もられた可能性があるため,企業の規模や平均年齢,産業医活動の実情に応じてASCVDリスク値の運用を企業独自で柔軟に対応する必要がある.</p>
収録刊行物
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- 産業衛生学雑誌
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産業衛生学雑誌 67 (1), 9-25, 2025-01-20
公益社団法人 日本産業衛生学会