食品テクスチャーの違いが咀嚼筋筋活動パターンに与える影響

説明

咀嚼は, 咀嚼筋, 神経, 咬合, 顎関節などの構成要素およびそれら相互の協調作用により正常に機能が営まれる. 顎口腔系の神経筋機構によって営まれるこの運動は, 下顎運動経路や咀嚼筋筋電図から客観的な評価がなされている. 下顎運動経路に関しては, 各咀嚼ストロークごとの筋活動パターンに注目した解析が重点的に行われている. しかしながら, 咀嚼筋筋電図は筋単独からの出力であるにもかかわらず, 筋放電のパターンを予測するのは不可能で, 再現性にも乏しく比較が困難とされている. 一方, 咀嚼を行う食品に関しても多くの立場から検討がなされ, 被験食品の違いが咀嚼運動や咀噛筋筋活動に反映されることはこれまでの研究で明らかにされている. そこで本研究では, テクスチャーの異なる食品が咀嚼筋筋活動パターンに対してどのように影響を及ぼすかを解明することを目的とし, ガムチューイング時の咀嚼周期と筋活動量を正規化したEMGプロフィールを作成し, 種々の食品の咀嚼運動時の筋活動パターンの変化を定型的に分析した. 顎口腔系に自覚的および他覚的に異常を認めない10名の健常有歯顎者(21〜29歳)を本研究の被験者とした. 被験食品として, チーズ, カマボコ, タクアン, センベイ, スルメおよびグミの6種類を選び, 各食品は縦, 横それぞれ1cmの大きさに規定した. 各被験者に, 習慣性咀嚼側での片側咀嚼を各食品で行わせ, 習慣性咀嚼側を自覚しないものは右側で行わせた. 下顎運動軌跡は, マンディブラーキネジオグラフ(Myo-tronics, MKG-K6)を用いて切歯点の動きを記録した. 表面筋電位の導出部位は, 咀嚼側の側頭筋前部, 咬筋中央部および顎二腹筋前腹とし, 直径5mmの銀皿表面電極を用いて, 中心間距離20mmで筋線維の走行に沿って貼付した. 導出した筋電位信号を生体電気アンプを用いて双極性に差動増幅し, 下顎運動軌跡とともに咀嚼開始から最終嚥下までをA/Dコンバータにて量子化した. EMGプロフィールは, 移動平均法を用いて平滑化し, 実効値(RMS値)に変換後, 各食品の咀嚼ストロークと筋活動電位について正規化した筋電位包絡線で表わした. 各食品のEMGプロフィールは, 咀嚼開始から嚥下までのストローク中の中央10ストロークを加算平均して求めた. EMGプロフィールを模式化するため, プロフィールのオンセット, オフセット, 活動のピークの各点に, オンセットと活動のピークとの中点およびピークとオフセットの中点を加えた5点を筋活動パターンの代表とし, 各筋について表わした. その結果, 以下の知見を得た. 1) 咀嚼筋筋活動パターンは, 食品によって異なる様相を示し, 食品差は側頭筋および咬筋では筋活動パターンのピークより後半, すなわち咬合相付近で著明であった. 2) 咀嚼の進行に伴って側頭筋と咬筋の筋活動のオンセットは遅延, デュレーションは短縮し, 筋活動パターンのピークより前半, すなわち閉口相付近の筋活動パターンに変化が著明であった. 3) 咀嚼の進行に伴う筋活動パターンの変化は, チーズで最も大きく, スルメで最も小さかった. 4) 筋活動パターンの食品差は咬筋で最も強く認められ, 側頭筋や顎二腹筋では大きな変化はなかった.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 57 (3), g77-g78, 1994

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679186253056
  • NII論文ID
    110001723646
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.57.3_g77
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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