歯原性角化嚢胞のX線学的ならびに臨床病理学的研究

沼田 好道

doi:10.18905/shikaigaku.59.2_g71

顎骨中心性に発生する歯原性角化嚢胞は, その活発な増大傾向と高い再発率から臨床的に十分な注意が必要とされている. 本研究は病理組織学的に嚢胞壁裏装上皮が角化を示した症例について, そのX線像を臨床所見および病理組織所見と対比しつつ解析することにより, 歯原性角化嚢胞特有のX線写真所見を究明し, 新たな画像診断基準を確立することを目的として行った. 検索対象: 本学附属病院に来院し, 病理組織学的に歯原性角化嚢胞と診断された65名の患者(男性44名, 女性21名)の多発例2例を含む71嚢胞(上顎27嚢胞, 下顎44嚢胞)の, 主として初診時に撮影されたパノラマX線写真を用いて解析を行った. 結果: 来院時の患者の平均年齢は33.6歳で, 年代別では20歳代が最も多く(18名), ついで30歳代(14名), 10歳代(12名)であった. 主訴および主要症状のうち最も多かったのは腫脹で全体の72.3%を占め, 47.7%が疼痛および不快感を訴えた. X線写真では歯原性角化嚢胞は境界明瞭なX線透過像を示すが, 発現部位および病巣の大きさや範囲は, 上顎では小臼歯部から大臼歯部に最も多く14嚢胞, 切歯・小臼歯部が7嚢胞,上顎結節部が6嚢胞であった. 下顎では, 切歯・小臼歯部が10嚢胞, 小臼歯・大臼歯部が9嚢胞, 大臼歯部から下顎枝に及ぶものが15嚢胞, 下顎枝にほぼ限局したものが6嚢胞, 下顎枝あるいは大臼歯部から反対側の犬歯・小臼歯部にまで及ぶものが4嚢胞みられた. 嚢胞の形状や辺縁形態は, 単胞性で平滑な辺縁を有するものが64.8%を占め, 単胞性であるが辺縁が scallopingを示すものが22.5%, 多胞性を示すものが12.7%であった. 上顎では, 1嚢胞を除くすべてが部位や大きさにかかわらず単胞性で平滑な辺縁を示していたが, 下顎では, 下顎枝に限局している比較的小さな嚢胞は単胞性で平滑な辺縁を呈するのに対し, 骨体部から下顎枝に及ぶ場合や, より広範囲に骨体部を侵襲した場合には, 辺縁が scallopingを示すようになり, また多胞性を呈していた. なお, 嚢胞が増大する場合, 顎骨の外力へ膨隆するよりは比較的抵抗の弱い髄質骨内を進展する傾向が強かった. 病変部内に埋伏歯を含む何が上顎では18嚢胞, 下顎では19嚢胞あり, いずれにおいても第三大臼歯が最も多かった. 病理組織所見としては, 嚢胞の大部分が錯角化上皮で裏装されていたが, 顆粒層の出現を伴った正角化上皮で裏装された例も少数(8嚢胞)観察された. 前者の上皮の多くは, 全体に層が薄く, 円柱状の基底細胞の柵状配列が特徴的な本嚢胞特有の組織像を示しており, とくに広範な顎骨の侵襲を来した例のすべてがこのタイプであった. 正角化上皮で裏装された嚢胞は比較的小さく, 全例において単胞性で病巣内に埋伏歯の存在が認められた. 歯原性角化嚢胞のX線像ならびに病理組織像から得られた知見は以下のようである. 1)本嚢胞の約2/3が他の顎嚢胞に共通した特徴である単胞性で平滑な辺縁を有するX線透過像を示したことから, それらとの新たな鑑別点の検討が必要である. 2)X線写真にみられる辺縁形態の変化や多胞化は, 増大の程度や発生部位の解剖学的要因と関連がある. 3)活発な増大傾向から腫瘍的性格がうかがわれたが, その進展様相からみると組織破壊性は比較的低い. 4)裏装上皮が正角化を示したものは, その位置づけについてさらに検討の必要があると考える.

歯原性角化嚢胞のX線学的ならびに臨床病理学的研究

Search this article

Description

Journal

Details 詳細情報について

Export

Report a problem