ニホンザル (Macaca fuscata fuscata) 舌乳頭の微細形態について (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)

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ヒトを含め哺乳動物の舌乳頭の形態に関する研究は古くから行われてきたが, 最近では走査電子顕微鏡を用いて舌乳頭の微細形態が調査されている. しかし, 霊長目の舌乳頭の微細形態に関する業績はほとんどみられず, 肉眼的観察にとどまっている. 著者はニホンザルの舌乳頭の微細形態を観察し, 霊長目について系統進化的ならびに哺乳動物について比較解剖学的考察を行った. 本研究には5頭の成ニホンザル (Macaca fuscata fuscata) を用い, グルタルアルデヒド溶液の灌流固定後, 舌乳頭の微細形態を観察する試料とし, 走査電子顕微鏡下で観察を行い, 一方, 組織学的検索には連続組織切片を作製した. ニホンザルの舌乳頭には, 糸状乳頭, 茸状乳頭, 有郭乳頭, 葉状乳頭の4種類が認められ, 糸状乳頭と茸状乳頭には存在部位による形態差が認められた. 糸状乳頭 : 舌尖部の糸状乳頭は環状に集合した環状集合糸状乳頭 (circlearranged filiform papillae) で, 多数の茸状乳頭の間に存在していた. 個々の乳頭の先端は鋭く円錐形で, 5〜8個が環状に集合し, その中心に小型の糸状乳頭が1個存在していた. この形態はリスザルに類似する. 舌体部の糸状乳頭は集合することなく, 単独で存在し長円錐形を呈し, 同乳頭のなかで最大であった. 糸状乳頭には内外両側に1本づつ棘 (高さ100μm) が付着していた. 上皮角化層は乳頭の前・後両面で厚く, 棘は上皮層のみで構成され, 結合織乳頭は認められなかった. この形態は食肉目のものに類似している. 舌根部の糸状乳頭はすべての同乳頭の中で最も細く小型, 芝の葉状で5〜7個の糸状乳頭が短円筒形の1個の上皮性隆起上端にたがいに近接して存在し, 舌尖部の糸状乳頭と同様の集合糸状乳頭 (aggregated filiform papillae) であった. このような特徴ある形態は本研究で初めて明示され, ニホンザルの糸状乳頭は存在部位による形態の相違が極めて大きいことが判明した. 茸状乳頭 : 舌尖部の茸状乳頭は舌尖から舌縁にかけて多数存在し, 乳頭基底部が強くくびれた球状で, 乳頭上面の上皮層は薄く, 2または3個の味蕾を認めた. 舌体部の茸状乳頭は高く, 円筒状で乳頭上面では2次乳頭が発達し, 1または2個の味蕾を認めた. このような形態も本研究で初めて明示報告された. 有郭乳頭 : 有郭乳頭は舌正中溝の両側に1対, さらにその前外側方に1個づつ計4個が舌分界溝の前に逆V字形に存在していた. 乳頭上面には味蕾がなく, 側面と乳頭溝に対向する上皮層には多数の味蕾が認められた. 4個の有郭乳頭を有するニホンザルは生活圏を森林と草原に広げているサル類と言及できる. またヒトやニホンザルの円形の有郭乳頭は, マンドリル, シマウマ, タテガミヒツジのものと形態が類似する. 葉状乳頭 : 葉状乳頭は舌縁後方に位置し, 15〜20個の乳頭葉からなり, 各葉は柱状で, 垂直に舌下面方向に長く, 乳頭溝は深い. 乳頭葉上面には味蕾はなく, 2次乳頭は大きく, 側面は2次乳頭の発達が悪いが, 多数の味蕾が認められた. ニホンザルの葉状乳頭は舌自体の大きさからみてもよく発達していた. 霊長目の糸状乳頭は基本的には集合型であるが, 食性などの環境適応形態として2次的に変化したものであると考えられた. 本来, 神経乳頭といわれる有郭乳頭と葉状乳頭には部位的形態の相違を認めないが, 茸状乳頭は発生過程中の味蕾野の数の差によって形態が異なると考えられた.

Journal

  • Shikaigaku

    Shikaigaku 53 (3), g109-g110, 1990

    Osaka Odontological Society

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282679186551808
  • NII Article ID
    110001723379
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.53.3_g109
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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