ストレス適応研究からみた気分障害治療薬開発の将来展望

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タイトル別名
  • Future prospects of drug development for treatment of mood disorders based on studies on stress adaptation
  • ストレス テキオウ ケンキュウ カラ ミタ キブン ショウガイ チリョウヤク カイハツ ノ ショウライ テンボウ

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抄録

元来,生体には,外界からのストレス刺激に適応するための生理機構が存在するが,過度なストレス刺激によりこの機構が異常をきたすと,様々なストレス性疾患に陥る.したがって,ストレス適応の形成に関与する脳機能を考究することは,気分障害に代表されるストレス性精神疾患の病態解明や新たな予防・治療戦略の提言につながるものと考える.本稿では,ストレス適応の形成機構における脳内セロトニン(5-HT)神経系の重要性を示唆する知見を紹介し,それらを基盤とした新たな気分障害治療薬開発の将来展望について言及する.ストレス適応モデルでは,ストレス刺激に対する脳内ノルアドレナリン(NA)神経の反応性が減弱するが,5-HT神経の反応性は維持される.また,5-HT1A自己受容体の機能が低下し,反対に,シナプス後5-HT1A受容体の機能が亢進する.一方,ストレス非適応モデルでは,ストレス刺激に対する5-HT神経の反応性の減弱と,シナプス後5-HT1A受容体の機能低下が認められる.さらに,5-HT1A受容体作動薬の投与によりストレス刺激に対する情動的抵抗性が形成されるが,この場合も,NA神経の反応性が減弱し5-HT神経の反応性は維持される.したがって,5-HT1A受容体の可塑的変化を基盤とした5-HT神経伝達の促進が,ストレス適応の形成に重要であることが示唆される.また,最近著者らが実施したプロテオーム解析では,ストレス適応モデルの脳内において,神経伝達物質の開口放出に重要なsynaptosomal-associated protein 25(SNAP-25)の発現量が増加していることが明らかとなった.このことから,ストレス適応の形成に寄与する5-HT神経伝達の促進において,SNAP-25が重要な役割を担っている可能性が考えられる.このように,5-HT神経伝達に関与している脳内分子を多角的に検索していくことが,今後,ストレス適応機構の解明研究の進展や新規の気分障害治療薬開発の糸口になるものと考える.<br>

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