レット症候群における病態分子機構

  • 三宅 邦夫
    山梨大学大学院 医学工学総合研究部 環境遺伝学講座
  • 久保田 健夫
    山梨大学大学院 医学工学総合研究部 環境遺伝学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Molecular mechanism in Rett syndrome
  • レット ショウコウグン ニ オケル ビョウタイ ブンシ キコウ

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抄録

レット症候群は女児1万~1万5千人に1人の割合で発症する進行性の精神・神経発達疾患である.原因遺伝子産物であるMeCP2はエピジェネティックな遺伝子発現調節機構における中心分子である.これまでMeCP2はメチル化DNAに結合し,遺伝子の発現抑制に働くと考えられてきたが,遺伝子の発現促進にも働くこと,クロマチンループ構造の形成やクロマチンの凝集に関与することもわかってきた.さらにMeCP2はメチル化DNAだけでなくハイドロキシメチル化DNAにも結合すること,多数の標的遺伝子だけでなくマイクロRNAの発現調節に関与することからMeCP2は多機能であり,遺伝子発現調節機構はまだ不明な点も多い.これまでレット症候群の神経病態は,神経細胞における機能異常に起因すると考えられてきたが,近年MeCP2は神経細胞だけでなく,グリア細胞でも発現していること,グリア細胞におけるMeCP2機能不全が神経細胞の突起やシナプス形成異常を引き起こすことがわかり,レット症候群の病態にグリア細胞が大きく関与していることが考えられる.グリア細胞の機能改善が新たなレット症候群の治療標的になるかもしれない.近年,レット症候群患者からiPS細胞が作製され,従来行われてきたモデルマウスや患者の死後脳を用いた神経病理学的な所見と同様に,レット症候群iPS細胞から分化誘導した神経細胞は神経細胞体や突起数の減少,神経細胞の成熟異常が確認された.今後,レット症候群患者iPS細胞を用いた研究は,神経病態の解明を目的とするだけでなく,治療薬の開発に発展することが期待される.

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 145 (4), 178-182, 2015

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (24)*注記

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