慢性腎臓病および糖尿病性腎症における硫化水素の関与

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タイトル別名
  • Role of hydrogen sulfide in chronic kidney disease and diabetic nephropathy
  • マンセイ ジンゾウビョウ オヨビ トウニョウビョウセイジンショウ ニ オケル リュウカ スイソ ノ カンヨ

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硫化水素(H2S)は,有毒で時には致死的なガスであるが,一酸化窒素(NO)および一酸化炭素(CO)に加えて第3のガストランスミッターとして,その生物学的機能が近年大きく注目されている.特に神経系,心血管系,消化器系では,神経伝達物質,血圧のコントロール,インスリン分泌などに深く関与していることが確認され,さらに炎症やアポトーシス,酸化ストレスの誘導にも重要な働きをしている.さらにH2Sの発現不全状態は,高血圧,動脈硬化,心筋梗塞,糖尿病など生活習慣病の主要な病態を引き起こす.急性腎傷害(AKI)は,直接生命予後に影響する病態として近年注目されている.虚血腎障害モデルに対して,H2Sドナーの投与により組織傷害および腎機能が改善されたことから,H2Sは虚血性AKIに対する重要な治療標的として期待される.また,H2Sは内皮細胞上のアンジオテンシン変換酵素(ACE)の活性の抑制効果がある.さらに,ホモシステインは,I型アンジオテンシンII受容体(AT1R)の発現を誘導する.このため,高ホモシステイン血症に伴うH2S産生低下は,ACE活性の上昇と血管のAT1R発現増加を介して,高血圧や腎の線維化を誘導する.一方,高ホモシステイン血症は慢性腎臓病の主要な危険因子であるが,ホモシステインはH2Sの基質であることから,H2S合成酵素(CBS,CSE)の発現不全に由来する内因性H2S産生低下状態を反映した病態として理解されるようになってきた.糖尿病および糖尿病性腎症に関しては,H2Sは直接膵でのインスリン分泌に関与し,糖尿病発症に深くかかわることが示された.高血糖に由来する糸球体でのNO発現低下は,内皮細胞障害により糖尿病性腎症における糸球体病変の発症・進展に深く関与し,CSE発現低下に伴うH2S産生低下は,尿細管・間質での虚血障害を進行させ,腎機能低下が進行すると考えられる.

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