『脳出血研究の「死の谷」への挑戦』 脳出血の薬物療法開拓のための病態動物モデル

  • 香月 博志
    熊本大学大学院 生命科学研究部 薬物活性学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Animal models of intracerebral hemorrhage for development of new drug therapy
  • 脳出血研究の「死の谷」への挑戦 : 脳出血の薬物治療開拓のための病態動物モデル
  • ノウシュッケツ ケンキュウ ノ 「 シ ノ タニ 」 エ ノ チョウセン : ノウシュッケツ ノ ヤクブツ チリョウ カイタク ノ タメ ノ ビョウタイ ドウブツ モデル

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抄録

出血性脳卒中の代表的病型である脳出血(脳内出血)は,予後不良となる率の極めて高い疾患であり,病理・病態形成に関わる組織・細胞・分子レベルでの機序の解明とともに,真に有効な治療薬の開発が切望されている.新薬開発のプロセスにおいて適切な病態動物モデルを用いた薬効評価を行うことは,基礎研究の成果を臨床へと還元する上で必須の要件である.我々は,小動物用核磁気共鳴イメージング装置を用いて,マウス線条体内へのコラゲナーゼ微量投与により誘発した出血の拡大範囲に基づいて脳出血病態モデルマウスを群分けすることで,一定の神経症状を呈する個体を選別し,安定した薬効評価系を構築することを試みた.出血が線条体に近接する内包領域にまで及んだマウス(内包出血マウス)では,内包領域に出血が及んでいないマウスと比較して血腫サイズが同等であるにも拘らず予後(個体生存率および運動機能)が著明に悪化したことなどから,ヒト脳出血患者と同様の特徴がマウス病態モデルでも再現できることが確認さ れた.そこで内包出血マウスを用い,従来の前臨床研究で有効性の報告されている薬物群の効果を再評価したところ,レチノイン酸受容体アゴニストであるAm80 に運動機能障害に対する著明な改善効果を認めた.またAm80 の作用機序について,炎症性サイトカイン・ケモカイン類の発現抑制効果に着目し,運動機能障害改善効果の認められないデキサメタゾンの効果との差異から,ケモカインの一種であるCXCL2 の発現抑制がAm80 の治療効果に寄与する可能性を見出した.このような戦略も含め,動物モデルでの薬効評価系の適正化を図ることにより,臨床効果を発揮しうる薬物や有望な薬物標的分子を高い確度をもって同定することが可能になるものと期待される.

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 144 (3), 120-125, 2014

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (13)*注記

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