最近のカビ毒に関する話題

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  • Recent Topic of Mycotoxins

抄録

カビ毒とは,カビの産生する2次代謝物質のうち,ヒトや動物に健康被害を引き起こすものをいうが,天然化合物の中で最強の発がん物質といわれるアフラトキシン(AF)もカビ毒の一つである。アフラトキシンに関しては,発がん機序に関する数多くの毒性研究とヒトにおける疫学研究がなされており,それらの結果から国際機関においては,いくつかの発がんリスクの推定がされているので紹介したい。<BR>アフラトキシン(AF)は,1960年にイギリスで10万羽以上の七面鳥が死亡する事例が発生し(turky“X”disease),その原因物質として飼料中のピーナッツミールから発見された。AF類縁体として10種類以上が報告されているが,そのうち食品を汚染するAFはAFB1, AFB2, AFG1, AFG2およびAFB1の代謝物であるAFM1の5種類である。AFB1, AFG1およびAFM1は,体内に摂取された後肝臓の薬物代謝酵素などで活性化されDNAに結合し,癌抑制遺伝子などに変異を起こすことが明らかになっている。5種類のAFのうち,RATを用いた発がん実験などでAFB1が最も発がん性が高いことが実証されている。ヒトにおける疫学調査では,1960年代初頭から主にアフリカとアジアを対象に,AFB1の摂取量と肝癌のリスクに関係について調査が進められた。1980年代半ばには原発性肝細胞癌の発生率が世界で最も高い地域の一つである中国の南部広西チワン族自治区の25~64歳の男性7,917人を対象に,原発性肝細胞癌の発生におけるB型肝炎ウイルスとAFB1の役割について検討するコホート研究が行われた。これらの結果を受けて国際癌研究機構(IARC)では,AFB1の発がん性は十分な証拠があるとしており,自然界で生じるアフラトキシン混合物は総合的に評価してヒトに対して発がん性がある(グループ1)としている。(表1)。<BR>ヒトへの発がんリスクの推定はFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)や欧州食品安全機構(EFSA)により検討されている。JECFAでは,体重1kgあたり1ng/日の用量で生涯にわたりAFB1に経口暴露した時の肝臓癌が生じるリスクは,B型肝炎キャリアの場合0.3人/10万人/年(不確実性の範囲0.05~0.5人/10万人/年),健常人の場合0.01人/10万人/年(不確実性の範囲0.002~0.03人/10万人/年)と推定した。表2にその推定の根拠となったモデルを挙げた。一方欧州食品安全機構(EFSA)では,用量反応をベンチマーク用量(BMD)モデルにより,ラットではBMDL10 : 0.17・g/kg体重/日,ヒトではBMDL10 : 870ng/kg体重/日BMDL1 : 78ng/kg体重/日と推定している。<BR>しかし,AFの摂取量と原発性肝臓癌の発生については,民族の多様性,性別による影響,年齢による影響など,不明な点が多く残されていることも事実である。幸いにしてAFのバイオマーカーについての研究は日進月歩に進んでおり,DNAとの付加体のバイオマーカとしてAFB1-N7-グアニンが高感度で検出できるようになってきている。今後,バイオマーカーを用いた疫学研究が飛躍的に進むと思われる。<BR>本稿では獣医学の分野でのカビ毒の問題には紙面の関係で触れられなかったが,飼料中のカビ毒に関する分析法は確立されているが,動物体のバイオマーカーについてはほとんど研究が行われていない。ヒト疫学分野で培った技術を使って,獣医学の分野でもカビ毒汚染と疾病との相関が明らかになることを願っている。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679314790784
  • NII論文ID
    130000340453
  • DOI
    10.2743/jve.12.129
  • ISSN
    18812562
    09128913
    13432583
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • Crossref
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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