栄養ケア・ステーション事業にかかる法的環境整備について
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- 早野 貴文
- 弁護士、(社)日本栄養士会監事
抄録
本研究は、(1)栄養ケア・ステーション(以下「栄養CS」という)事業が栄養士会の単なる公益活動から採算性をもった企業活動へと転換するうえで、法制度上いかなる配慮と整備を行うべきか、(2)その転換のもとで、特定健康診査・特定保健指導、とくに特定保健指導の実施上の受け皿として栄養CS を位置づけたとき、法制度上いかなる配慮と整備を行うべきか、という2 つの視点から今後早急に検討すべき法制度上の論点を抽出することを目的とする。具体的には、栄養指導契約の法的性質の明確化、管理栄養士・栄養士の就業関係の法的整備、栄養士法制における公益性の制度化の諸課題を対象にして、それらをめぐる法的論点を分析する。 これら検討の出発点になるのは、栄養指導という業務の特性である。栄養指導を有償で取り引きするサービスとしてとらえるならば、これは栄養指導という商品の特性を明らかにする作業ということもできる。 栄養と指導にかかる高度に専門的な科学の実践が栄養指導という業務である。そうした業務の遂行は、独立的で自律的なものとならざるをえない。管理栄養士・栄養士の就業形態がどのようなものであろうと、栄養指導の中身への指揮命令は栄養指導という営みの性質に馴染まないものがあるといえる。 栄養指導の提供を目的とする栄養指導契約の法的性質は(準)委任と解される。勤務先との労働契約の性質が雇用、請負、委任のいずれであろうと、管理栄養士・栄養士は、勤務先と栄養指導契約を締結して栄養指導を受ける個人に対し、自ら栄養指導契約の当事者となった場合に等しい義務を負う。もとより、その個人と栄養指導契約を結ぶか否かの判断、栄養指導サービスの報酬の請求と決済は、栄養指導契約の主体たる勤務先がその権限をもって行い、あわせて、勤務先は管理栄養士・栄養士の栄養指導業務上の過誤の責任を負担する。 栄養指導業務の専門性に根ざした自律性に徹すれば、純粋に理論的な考察としては、栄養CS が他企業の要請に応じて管理栄養士・栄養士をその企業の栄養指導サービスに従事させても「派遣」概念にはあたらず、したがって労働者派遣法制上の規制を受けないと解することも可能である。 食生活を中心とする生活習慣を改善・変革し人びとの生涯生活の質を向上させるうえで、栄養指導の重要性はいかに強調しても強調しすぎることはない。今日、栄養指導のあり方は、公共の利害に関わる事柄である。そうであるにも関わらず、現行の栄養士法制は栄養指導の、そして、管理栄養士・栄養士の専門職としての公共性に、十分に意を用いているとはいえない。栄養士法制は、公共の利益・公衆衛生を掲げて、栄養指導の公共サービス像を構築する必要がある。使命規定、業務規定、無資格者の栄養指導行為規制、守秘義務、栄養指導の提供義務などの規定の導入等の栄養士法制の整備が求められる。
収録刊行物
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- 日本栄養士会雑誌
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日本栄養士会雑誌 51 (8), 833-840, 2008
公益社団法人 日本栄養士会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282679315665792
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- NII論文ID
- 130004837225
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- ISSN
- 21856877
- 00136492
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可