歯科心身症における精神分析的研究

DOI
  • 蘆田 奈都子
    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学系専攻包括診療歯科学講座頭頸部心身医学

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タイトル別名
  • Psychoanalytic study of psychosomatic dental problems

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抄録

近年心身症的な症状に悩む患者数は増加しているが, 歯科領域における心身症患者の数も増え続けている.患者はさまざまな口腔内の愁訴を訴えて歯科医院を訪れるが, 歯科医師もはっきりした器質的病因をみつけられず, その治療は一時的なものとなることが多い.歯科心身症のなかでもしばしばみられる舌痛症は, その病因がはっきりしておらず, 心理学的な原因について指摘する論文も多々見受けられる.心理検査等を用いて舌痛症患者の心理的特性を把握しようとする試みは今までもいくつか見受けられるが, 本稿では精神分析理論を用いて舌痛症患者の精神病理の解釈と, 心理療法における精神分析的治療の有効性への可能性を考察した.<BR>心身症における精神分析学的な解釈は, Freudの神経症における研究に端を発しているが, 抑圧された欲望が身体化表現されたという説から発展してきている.Abraham (1877-1925) はFreudの説を発展させ, 自我の発達におけるそれぞれの相の重要性と性格形成に及ぼす影響を論じている.その後, Iqein (1882-1960), Fairbairn (18892-1964) らが早期口唇期における心的構造の発達に重要性をおいた対象関係論を展開していった.<BR>今回, エセックス大学にて学んだ英国派精神分析理論を軸として, 東京医科歯科大学歯学部附属病院頭頸部心療外来を受診した舌痛症患者3名の精神病理について, 対象関係論を中心とした考察を行った.共通して観察された事項として, 対象喪失に関する経験を持ち, 抑圧された感情を言語化する機会を失っているということが挙げられる.また, 口腔に関わる嗜好を持ち, 口唇期的な依存的な性格を残している.口腔に現れた症状は口唇期における葛藤に根ざした, 分離・個別化の過程で生じた何らかの未解決な問題に根ざしているという解釈が成り立つのではと考えられた.また, これらの症状は患者の抑圧された攻撃性と同一化への願望を無意識のうちに呈出しているものとも考えられた.

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