帰属炭素税の中期的動学効果に関する分析

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タイトル別名
  • Mid-term Dynamic Effects of Carbon Tax Based on the Imputed Price of Carbon

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抄録

国際炭素税はCO2排出削減を効率的に達成するための一手段である。しかし,各国で共通の税率を導入すると貧困国の経済的負担は大きくなる。炭素の帰属価格に基づく炭素税(ICT)は,各国の経済レベルに応じた差異のある税率を賦課する国際炭素税である。これまでの研究ではICTの効果を短期的観点から分析してきたが,本税の性質や将来の気候変動政策の構築が急務であることを踏まえると,より長期的な効果を分析することが非常に重要となる。本研究の目的は,ICTが環境と経済に与える中期的な(2050年までの)影響を分析することである。本分析には動学的応用一般均衡モデルを用い,ICTによる影響を国際共通炭素税(CCT)による影響と比較する。各地域のICTの税率は公式に従って決定され,毎期更新される。一方,CCTの税率はICTケースと世界のGDP変化(BAU比)が同率となるように決定される。<BR>分析の結果,世界全体のCO2排出削減量はICTケースの方がCCTケースよりも小さいことが示された。この点では,CCTがより適切な炭素税であると言える。しかし,経済的側面も同時に考慮すると,両者で地域的なGDP変化のパターンが大きく異なるためにCCTの優位性は低下する。ICTケースではGDPのマイナス影響が途上国で先進国よりも小さいが,CCTケースではその逆に途上国でマイナス影響が大きくなる。さらに,ICTケースの方が世界全体のGDPに占める途上国の割合が高くなり,地域間の一人あたりGDPの格差が縮小する。この結果は,両者の経済的公平性が進展することを意味する。そのため,ICTとCCTには経済的公平性とCO2削減効果にトレードオフが見られる。世界全体でCO2排出削減政策を導入することと途上国に対する過度な経済的負担を回避することの重要性を踏まえると,中期的に見てICTの方がより政策的実効性の高い炭素税政策と言える。

収録刊行物

  • 環境科学会誌

    環境科学会誌 22 (6), 391-400, 2009

    社団法人 環境科学会

参考文献 (33)*注記

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