琉球列島における更新世脊椎動物相:その渡来と絶滅

  • 大塚 裕之
    Department of Earth and Environmental Sciences, University of the Ryukyus
  • 高橋 亮雄
    Department of Earth and Environmental Sciences, University of the Ryukyus

書誌事項

タイトル別名
  • Pleistocene Vertebrate Faunas in the Ryukyu Islands: Their Migration and Extinction
  • Pleistocene vertebrate fauna in the Ryukyu Islands: Their migration and extinction

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抄録

琉球列島には,多くの陸棲脊椎動物の化石種が産出する他,現在でも数多くの固有種が棲息しており,世界の島棋域における陸棲脊椎動物の進化の研究にとって重要なフィールドの一つである。これら化石および現生の陸棲脊椎動物群集は,新第三紀中新世末期以降更新世後期までの,少なくとも4 回の陸繋期に,それぞれ大陸から渡来し島棋での繁栄の後,更新世末期に一斉絶滅した種や,絶滅を免れた種の子孫である現生の固有種から成る。それらの分布および種構成は,同列島と大陸との陸繋状態,とくに生物分布境界線としての渡瀬線が通るところとして知られるトカラ・ギャップ(トカラ海峡)やケラマ・ギャップの形成時期に密接に関連している。近年の琉球列島における脊椎動物化石およびそれらの包含層の地質学的・古生物学的研究成果は,同列島の化石および現生動物群集の渡来時期ならびにそれらの起源について重要な手がかりを与えた他,島棋への隔離がもたらす陸棲脊椎動物のサイズの変化のテンポおよびモルフォタイプの形成過程についての重要なデータを提供した。<BR> 琉球列島における鮮新世以降の陸棲脊椎動物化石群集は,中新統最上部の層準を除くと,鮮新統および更新統のほぼ4 つの層準から産出する。<BR> 1) 鮮新世末期から更新世初期の第2 陸繋期(1.8 -1.5Ma) には,琉球弧一帯は台湾北部から奄美諸島までのびる一大半島を形成した。この陸地を通って,大陸は中国中部の四川省夏山または安徽省繁昌の揚子江下流域から,シカやネズミ類によって特徴づけられる動物群が琉球列島へ渡来し,第2 層準のリュウキュウジカーレオポルダミス動物群(Cervus astylodon-Leopoldamys fauna) (今泊一赤木又化石群集; 1.5 - 1.3Ma) を形成した。それらの一部は中琉球の奄美諸島まで達したが,この時既に形成されていたトカラ海峡によって,北琉球(大隅諸島)へは到達出来なかった。一方,種子島の増田層形之山部層(1.3 - 0.2Ma) からは中琉球の固有種であるイシカワガエル化石を産出するが,その先祖の北琉球(種子島)への渡来は,増田層を堆積せしめ, トカラ海峡(渡瀬線)を形成した約130万年前の海進以前に存在した陸地を通って行われたで、あろう。<BR> 2) 第3陸繋期(ca. 0.02Ma) は,更新世中期に広がった琉球サンゴ海の隆起や傾動運動(ウルマ変動),さらにその後の侵食によって生じた台湾から中琉球の奄美諸島まで連なった半島にそって,大型リクガメ類のオオヤマリクガメ(Manouria sp.) ,リュウキュウヤマガメ(Geoemyda japoniea)やハコガメ類(Cistoclemmys),古型Munticinea のリュウキュウムカシキヨンDieroeerus ?sp. などが南から渡来した可能性がある。<BR> 3) ウルム氷期にあたる第4 陸繋期には,台湾北西部から八重山·宮古諸島までの南琉球は大陸と陸地接続し,北方系の動物群集であるCapreolus 動物群の渡来があった。これらは,更新世前一中期までに渡来していた動物群の子孫と混在した第4層準の宮古脊椎動物化石群として認められる。<BR> この時期には,中琉球(沖縄諸島および奄美諸島)は,北琉球(大隅諸島)および南琉球とは陸地接続は無かったか,あるいは不完全で,第2 および第3 陸繋期に渡来した動物群の遺存種から成る更新世末期のリュウキュウジカーオオヤマリクガメ動物群(Cervus astylodon-Manouria fauna) を形成した。これらの動物群は琉球石灰岩裂締や洞窟堆積物(第4 層準)から産出する。その中で,リュウキュウジカ(C. astylodon) やリュウキュウムカシキヨン(Dicrocerus? sp.)等のシカ類や大型リクガメ(Maunauria sp.)は更新世末(0. 025-0.015 Ma)に一斉絶滅したが,この時代に絶滅を免れたその他のほ乳類·爬虫類·両生類の子孫は,現在の琉球列島の固有種を形成している。

収録刊行物

  • Tropics

    Tropics 10 (1), 25-40, 2000

    日本熱帯生態学会

被引用文献 (16)*注記

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参考文献 (76)*注記

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