白亜紀における二枚貝類の進化と古環境の変遷

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タイトル別名
  • Evolution of bivalves and paleoenvironmental changes in the Cretaceous
  • ハクアキ ニ オケル ニマイガイルイ ノ シンカ ト コカンキョウ ノ ヘンセ

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抄録

"中生代の海洋変革"(Vermeij, 1977)は, 白亜紀の古生物学の最大のテーマのひとつである.捕食者/被食者の間で繰り広げられた果てしない競争(escalation)が, "海洋変革"を説明する有力な要因として, Vermeij (1987)によって提唱された.それによって, いままで個々の分類群で断片的にえられていた形態進化や機能形態に関する経験的事実が, しばしば統一的に説明できる場合があることがわかってきた(速水, 1990).一方, 近年発達してきた堆積相解析の手法を生かし, 本邦白亜系から産する二枚貝類の産状やその層序的な変遷を再度洗いなおしてゆくと, Vermeij (1987)による捕食圧増大のパラダイムに加え, もうひとつのシナリオが浮かび上がってくる.それは, 新たに出現した内生完水管型マルスダレガイ目の汽水域から浅海域への進出によって, 非水管型および不完全型水管型の内生二枚貝がニッチを奪われていったのではないかというものである.白亜紀二枚貝類の変遷は, 捕食者/被食者という関係に加え, "同業者"同志のこれらの二枚貝類の生き残り戦略とその攻防の歴史を示しているように見える.その変遷が急激に, あるいは爆発的に進行している時期は, ほぼ世界的な海退期にあたり, その属種の多様化は旧型二枚貝において特に顕著である.大きな環境変化(特に海退期における)に, すばやく適応した完水管型二枚貝と適応能力に劣る非水管型・不完全型の内生二枚貝の差が, 捕食動物からの逃避能力の差になって現れると同時に, その多様化を促進させたと考えられる.その進化は, 更なる捕食動物群の進化となってエスカレートし, 基本的に劣性な旧型二枚貝類は, その生息環境(浅海域)から駆逐される結果を招いたと考えられる.しかし, 捕食による個体群の縮少は, 捕食者の生息域では決定的であったとしても, すでに生息域を浅海域から幾分深い生息環境まで時間をかけて広げていた旧型二枚貝群を, 全域から完全に駆逐したとは考えがたい.言い換えれば, 二枚貝類の変遷の要因は, その二枚貝の環境変化に対する適応能力の差, つまり生息環境の変化にすばやく適応できるか否かの, 形態的, 機能的な優劣の差を第一次的に考える必要があり, 捕食圧の増大はその消長を助長する要因のひとつと見るべきであろう.

収録刊行物

  • 化石

    化石 64 (0), 43-48, 1998

    日本古生物学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (13)*注記

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