タイ国の高等植物における温帯要素の分類・地理学的研究(3)

書誌事項

タイトル別名
  • Contributions to the Flora of Southeast Asia VII. Taxonomy and Phytogeography of some Temperate Species in Thailand (3)
  • タイ国の高等植物における温帯要素の分類・地理学的研究-3-〔英文〕
  • タイコク ノ コウトウ ショクブツ ニ オケル オンタイ ヨウソ ノ ブンルイ

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抄録

この報告は、昭和57年度文部省科学研究費海外学術調査(No.57041073)および昭和58年度同調査総括(No.58043020)によっておこなわれたタイ国植物調査の成果の一つである。タイ国の北部山岳地帯には200種に近い日華区系要素(暖温帯および冷温帯要素)が分布していると見られる。われわれは、東南アジアのフロラ解明の一環として、これらの日華区系要素の分布の実態-分布地・生育地・関連植物群との類縁等-を知る目的で、継続して同一表題の報文の発表を意図している。本報では、前報(本誌32巻37から46項)に続き、セリ科5種、ツリフネソウ科3種、キク科3種1亜種をとり上げ、分布および分類学的形質につき新しく得られた資料を公表し、身学名1個を提案することとした。セリ科:Heracleum siamicum, Hydrocotyle chiangdaoensis, H. siamica, Pimpinella diversifolia(ミツバグサ)、Seseli siamicumの5種に言及した。Hydrocotyle siamicaはタイのほかベトナム・ラオス・ビルマに分布し、ミツバグサは九州・台湾・インドシナ・中国南部およびヒマラヤに分布するが、他の3種はタイ国特産である。Heracleum siamicumは、ヒマラヤのH. nepalenseや雲南・ラオス・トンキン産のH. bivittatumに近い。Hydrocotyle chiangdaoensisとともに石灰岩生である。Seseli siamicaは、砂岩生、雲南産のS. yunnanenseに近い。ツリフネソウ科:Impatiens jurpia var. jurpioides(新名)、I. longiloba, I. racemosaをとり上げた。いずれも、下部山地常緑樹林帯に産し、林内または林縁に群生するのをみる。I. jurpia va. jurpioidesは東ヒマラヤからタイ北部に分布するI. jurpiaの中で外がく片が大きく卵円形となる群である。I. longilobaはタイ特産であるが、東ヒマラヤからビルマ北部に分布するI. stenanthaに極めて近く、同一種ともみることができる。後者は側がく片が1まわり小さく、唇弁の先が芒状に長くのびることを特徴とする。I. racemosaは、これらより分布域は広くチベット南部に及ぶとみられる。ヒマラヤ産の個体が黄花をもつのに対し、タイ国産のものは花は淡紅紫色である。この群では唇弁の距の有無は変化し易いとみえ、同一個体でも距のある花とない花をみることができる。I. longilobaおよびタイのI. racemosaの染色体数は2n=18であった。キク科:Saussurea deltoidea subsp. deltoideaおよびSubsp. polycephala, S. peguensis, S. venosaの3種に言及した。S. venosaがDoi Chiang Daoの石灰岩地に特産するほかは、中国南部からビルマあるいはネパールにかけて分布する。これら3種はいずれもSect. Elataeに属し、染色体数は2n=34を数えた。京都で種子から育成したどころ、S. venosaは一年草、他は越年草である性質が観察された。

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