東カリマンタンのシダ植物補遺3

書誌事項

タイトル別名
  • Additions to the enumeration of East Kalimantan pteridophytes 3
  • 東カリマンタンのシダ植物補遺-3-〔英文〕
  • ヒガシ カリマンタン ノ シダ ショクブツ ホイ 3 エイブン

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抄録

前2報に引き続き、この項ではメシダ科、マトニア科、ヤブレガサウラボシ科、スジヒトツバ科、ウラボシ科、ヒメウラボシ科を扱った。ナンゴクシケチシダはボルネオでも高地には分布が広い。ヘラシダは東カリマンタンではすべて渓流沿いでみつかり、山地では発見されなかった。東カリマンタンの高地ではふつうの種である。台湾から中国西南部・タイ・ルソンにかけて分布するオオミンゲツシダDryopteris subfluvialis (=Deparia subfluvialis)はふつう汎旧熱帯性のDeoarua boryanaと同種とされるが、オオミンゲツシダの根茎が直立するのに対して、カリマンタンで観察したところ(ジャワ・セラムでも同様)、根茎は短く匍匐している点が著しく異なる。両種は別種である。サラワク・サバに分布するDiplazium hottaeは近年新種として発表された種であるが、カリマンタン側でもやや乾いた山腹斜面に群生しているのを観察した。Diplazium poienseは2回羽状複葉をもち小羽片はノコギリシダに似て、ヒロハノコギリシダの仲間とは近くない。サラワクとセレベスに分布するが、今回カリマンタンでも雲錐林が発達してくる山地の稜線で採集した。マトニアの1種Matonia foxworthyiは根茎が雲霧林床のマット状のコケの中をはって生える。このシダは一見してヤブレガサウワボシに似た掌状の葉をもつが、楯状包膜と毛(鱗片を欠く)の形質の組合せが特異である。ヤブレガサウラボシ属のDipteris quinquefurcataはやや細い葉裂片をもつ点で、ヤブレガサウラボシと渓流沿いの植物のD. lobbianaの中間にくるが、山地林斜面に生える。スジヒトツバは東カリマンタンでは雲霧林にもみられ、雲霧林下の単葉型と低地のふつうの二裂型が類型的には区別できそうである。ミツデウラボシ属のCrypsinus oodesは革質卵形単葉をもつ小型のシダであり、林内を流れる川岸のコケ蒸した岩上・堤上に生える。これも渓流沿い植物の一員に加えてもよいかもしれない。オオクボシダ属のXiphopteris alternidensに仮にあてたシダは、ヒメウラボシ科には珍しく渓流沿いの岩上に生える。Platycerium coronariumとLecanopteris carnose L. Crustaceaは太い根茎中に蟻が巣をつくる「蟻植物」の例である。いずれも高木の高い樹上に着生し、枝が落ちるか木が伐採された現場にでも出くわさないと、指をくわえてただ見上げるだけでなかなか採集できないものである。本稿で東カリマンタンのシダの採集記録を終える。筆者らの3回にわたる現地調査で、東カリマンタンだけでも500種をこえるシダを観察することができた。種まで確実に同定されないものがまだ多いことはリストを一見して明らかなことであるが、これらの問題は、近隣地域の資料ももっと集めて比較検討する要のあることで、早急に結論の出せることではない。しかし、東カリマンタンについては、低地のフタバガキ林から2000mの高地まで、更には、石灰岩地帯も含めて、多様な環境について広く比較調査をすることができたので、もっとよく調べられている近隣との対比は可能になってきた。これまで原生林に手がつけられていなかった低地で急速に開発が進められているところだけに、現時点で調査結果をまとめることに一つの意味がある。1981年夏の調査では東カリマンタン西北の山地を集中的に観察した。ロングバワンという村を中心とするこの地域は、1000〜2000mの山地で、東カリマンタンでは高度の高い地域となっている。ボルネオでは、これまで、キナバル山は固有度が高く、豊富なシダ植物相のみられることが特徴とされていた。先に、南カリマンタンのブサール山で調査をしたとき、ボルネオの北と南でキナバル山と距離的にはずい分離れているブサール山で、それまでキナバルに特有とされていたシダを幾つか発見し、高地ではキナバルに比べられるような植物相がみられるのではないかと示唆していた。今回、ボルネオ中心部の高地を調査することによって、キナバルが孤立した山ではないことがますますはっきりしてきた。もちろん、キナバルは4000mを越える山であるし、今回の調査地はその半ばの高度に達するのみだから、同じように、という訳にはいかない。キナバルからは、1934年のクリステンセンとホルタムの有名な研究で,40のシダが新しく記録されたが、そのうち14が私共の今回の調査でキナバル以外から発見された。ボルネオほどの大きな島でも、生態的条件には地域によっていろいろの差はあるとはいえ、全体としてはまとまりのある植物相がみられるようである。東カリマンタンの調査で遭遇したいろいろの事実のうち、渓流沿い植物が型も多く、典型的であることが示唆に富む。シダ植物のうちでも渓流沿いに固有のものが多く、それらのうちには種の階級で分化しているものから、種内分類群の階級で特殊化しているものまでさまざまの例がみられる。ファン・ステーニスはボルネオから渓流沿いのシダを12報

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