タイとインドシナのトウエンソウ属 : タイ国植物誌研究集会講演集録

書誌事項

タイトル別名
  • The Genus Xyris in Thailand and Indochina. : The Lectures on the Flora of Thailand
  • タイとインドシナのトウエンソウ属〔英文〕
  • タイ ト インドシナ ノ トウエンソウゾク エイブン

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抄録

1979年5月中旬に京都でタイ国植物誌研究集会が開かれた。タイ国植物誌研究計画が国際的な企画として設定されたのは1960年代であり,1970年からは植物誌も刊行されている。編集委員会はCopenhagen,Kewに続いて,Leyden(1967),Paris(1972),Aarhus(1975)でも開かれているが,今回京都で編集委員会が開かれる機会に,もう少し規模を拡大したタイ国植物誌研究集会を企画した。幸い,日本学術振興会やトヨタ財団の援けも得られ,外国からの参加者8名を含めて充実した集会であった。5月12日には京都会館で,タイ国植物誌に関する講演が行なわれた。この集録はその日行なわれた5つの講演を要約したものである。Tem SMITINAND博士は現在タイ国林野庁副長官であるが,タイ国の植物相を詳しく検討しておられ,この植物誌の作成にも大きな力となっている秀れた研究者である。この講演では,スライドを豊富に示しながら,山地において顕著な植物について,興味ある紹介を行なわれた。特に,北部の山地に生育するヒマラヤ要素の植物には日本の植物相に関係のあるものがあるが,そのような種は特に詳しく紹介せられた。清水建美博士の講演は,現在研究中のホウセンカ属を中心に,石灰岩植物についての考察を行ったものである。この論文で,タイから40種のホウセンカ属植物を確認し,そのうち19種が固有のものであることを明らかにしておられる。また,ホウセンカ属の分類では,WARBURGの分類系を修正して使用されているが,この属全体の再検討が必要なことも指摘されている。いわゆる石灰岩植物として,タイのホウセンカ属のうち16種が挙げられており,2つの節に特にそれが多いことが示されている。荻野和彦博士は森林生態学の立場から,タイ国における植生の一般的な紹介をされ,地形や気候と対比した上でどのような森林が分布しているかを整理された。その上で,低地における落葉広葉樹林に着目され,人間生活の影響でこの種の森林が広大な地域を占めるようになっている現状を客観的に示された。人口の増大に伴って自然が変貌を遂げつつある現状を明快に示し,問題提起とされたものである。高谷好一博士は御専門の地質学の立場から,タイ国の中央平原について,地形や地質についての知見を総括的に紹介して下さった。更に,いろいろの情報を巧みに盛り合わせた地図を駆使しながら,この地域の植生が移行する様子や標微種の出没する様を,地形や土地と対比させながら整理し,説明して下さった。高谷博士はチャオフラヤ・デルタについていろいろの観察をしてこられ,興味のあるデータを示しておられるが,そのような植生と地質学的データの対比が山地についても可能になれば面白いものと思われる。コペンハーゲンのBertel HANSEN博士は最近ではツチトリモチ属の秀れたモノグラフを著したりしておられるが,トウエンソウ属の研究を終えられたところであったので,特にタイやインドシナに生育する種の紹介をしていただいた。トウエンソウ科はツユクサ目のものであるが,日本には自生しないものであり,一般的な形質について図示し,説明されてから,インドシナ半島産の12種の個々について詳しく話していただいた。なお,この研究集会を援助して下さった日本学術振興会とトヨタ財団,それに集会に参加してこの会を有意義なものとして下さった内外の研究者に深謝いたします。(岩槻 邦男)

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