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- 田中 教之
- 帝京大学文学部教育学科
書誌事項
- タイトル別名
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- What is a species?
- シュ トワ ナニカ
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説明
いかなるとらえ方で種をとらえても, 種はその固体のすべてが有機的に組織化された統合的な構造と機能を持つものではない。ある個体群が種であることを実質づける絶対的, 普遍的な性質はない。自然の中に存在しているのは個体の群れであり, 種という枠組みは存在しない。このような意味において, 種は実在するものではない。種も含めてすべての分類階級のカテゴリーは, あくまでカテゴリーであり概念であって実体ではない。一方, 自然界には個体群の顕著なまとまりが存在する。個体が持つ属性に従ってこのようなまとまりをカテゴライズ(把握)したものが種の分類群である。従って, 種という分類群は存在していると言える。この意味においては, 他の分類階級の分類群も存在していると表現されよう。しかし, この場合においても, 実際に存在するのはあくまで個体の一群であり, それらは自らを種であるとする決定的要因を何一つとして持つものではない。個体群間には質的な隔たりが存在するが, どの隔たりが種の境界に相当する隔たりであるのかを決めるのは人間である。すなわち, 種の輪郭は人間によって与えられる。いかなる分類も人間の行為にほかならない。種という構成ないし枠組みは元来自然に存在するものではない。従って種は単位であるとは言えない。また, 種は進化の単位でもない。種が単位であると表現される場合の種とは, あくまで人間によって種の枠組みが与えられ, それが単位であるとみなされた場合に限定される。一般的にもっとも広く受け入れられている種の概念とは, いわゆる分類学的種概念であると思う。筆者が抱く種の認識もこの概念と一致する。このような概念によって種を定義すると, たとえば次のようになる。"種とは属性において類似する個体の一群であり, 他のそのような個体群とは分類学的に重要と認められる性質において明確な差異をもつもの"である。ただしこの表現にある類似という語などについては本文を参照されたい。種は個体が持つ属性, 換言すれば, その質的内容の類似性に基づいて把握されるものであり, このためには, あらゆる面からの総合的検討が必要である。生殖的隔離だけを基準として種を境界づけることには賛成できない。種と他の分類階級との間に本質的な差異は存在しない。生物界には構造の階層的発達が認められる。そして, しばしば種がこの階層の中に位置づけられることがある(たとえば, 細胞-(多細胞)個体-種というように)。しかし, このような構造の階層的発達の程度は種によって異なる。また, 種は個体によって組織化された構造を持つものではない。従って, 種はこのような階層の中に位置づけられるべきではない。種とこのような構造的階層性とはまったく別の性質のものである。Mayrの種の定義, および唯名論的, 類型学的種概念への彼の批判に対して, 筆者の批判的見方も述べた。
収録刊行物
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- 植物分類,地理
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植物分類,地理 47 (2), 239-252, 1997
日本植物分類学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282679419784064
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- NII論文ID
- 110003758896
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- NII書誌ID
- AN00118019
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- ISSN
- 21897050
- 00016799
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- NDL書誌ID
- 4150989
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- NDLサーチ
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可